2012年度朝日広告賞「広告主参加の部」のグランプリは東京エレクトロンが受賞した。昨年4月から8月まで、朝刊テレビ面に小型広告を不定期に出稿し、毎回2種類の元素記号を掲載。身の回りのどんなものがどんな元素で作られ、どんな役割を果たしているのかを、カラフルなイラストと、キャンペーンのイメージキャラクター「げんそ博士」が全59回にわたって紹介した。さらに5月3日には、全30段の「元素周期表」を掲載。この紙面を台紙とし、少しずつ小型広告を切り貼りして表を完成させていく楽しみを読者に提供した。
目に見えない技術の貢献を、目に見えない元素をモチーフにして伝える
受賞の感想について、コーポレートブランド推進室・室長 兼 CSR推進室・室長の安原もゆる氏はこう語る。
「第一報を聞いた時は大変驚きました。その後じわじわと実感がわいてきて、これはえらいことになったなと(笑)。たいへん名誉なことで、社長以下、社員一同大変喜んでおります」
同社は、半導体製造装置を中核として、フラットパネルディスプレイの製造装置や太陽光パネル製造装置も開発・製造・販売するBtoB企業。一般消費者にその業態がわかりにくい業種ゆえ、ブランディングに力を入れている。今回のキャンペーンもその一環だった。
「当社は、スマートフォンなどの電子製品を作っている会社ではない。電子製品に入っている半導体を作っている会社でもない。半導体を作る装置を作っている会社です。つまり、一般消費者の身の回りのものに深く関わっていながら、少し距離のある技術なので、目にしていただくことができない。なんとかその存在に気付いてもらいたいと、効果的なコミュニケーションを模索していたところ、国立科学博物館で『元素のふしぎ展』が開催されることを知り、ぜひ協賛したいと思いました。というのも、世の中にある全ての物質のモトになる「原子」を構成している原子核の周りを必ず電子がまわっています。東京エレクトロンの『エレクトロン』は、電子という意味です。万物の構成要素である元素や電子のように、様々な製品に欠かせない会社であることを訴求するうってつけの場だと考えたのです」
イベント協賛をきっかけに打ち出したのが、受賞したシリーズ広告だ。出稿が始まると、「見逃したので送ってほしい」「学校の授業の教材として使いたい」など問い合わせが殺到、希望に応じて読者に送付した紙面は最終的には5,000部に上った。
「不定期掲載にしたのが、図らずもよかったと思います。掲載されなかった日さえ『次はいつ掲載されるのか』と関心の的になったのです。また当初は、理系に興味のある人や学生さんに響くかなと思っていたのですが、周期表の紙面の送付を希望してきたのは、4歳のお子さんのために欲しいというお母さんから、85歳の方まで。これまでは事業の性格上、一般の方から問い合わせを受けることが多くなかったので、急きょ専用の窓口を作り、電話、お手紙、ウェブ投稿などに対応しました。問い合わせ内容はすべて記録し、今後のコミュニケーションに役立てていくつもりです」
事業に通じる「ものづくり」の楽しさは、元素118個の2倍も3倍も
審査会では、小型広告を少しずつ切り貼りして周期表を完成させていく仕掛けが、「新聞広告の特性を生かしている」と評価を集めた。
「自らの手を動かして、少しずつ完成させていく。そのプロセスは、当社の“ものづくり”と共通するような気がします。例えば、弊社の半導体製造装置は、800から1,000もある最先端デバイスの製造プロセスの一翼を担っています。今回の広告は、118ある元素を一つひとつコレクションしていく。つまり、118回の手作業が必要で、しかも一度の作業に『切る』『貼る』『見る』など、いくつもプロセスがありますから、楽しみは118回どころではない。それは、新聞メディアでしか味わえないものだったと思います」
また、クリエーティブの力もキャンペーンの成功に大きく貢献したと安原氏は振り返る。
「生活に身近なものをモチーフに、わかりやすく楽しく元素の存在を紹介したイラストの貢献が大きかったと思います。実は、最初に3つほどイラスト案があったのですが、一番親しみを感じるイラストを選びました。ウイットに富んだコピーとあいまって、いろんな“気付き”を提供できたと思います」
なお、今回の取り組みの集大成として、今年5月9日に「すべて貼ったらこうなります」という完成形のビジュアルを全30段で展開。これも大きな反響を呼び、4万部を増し刷りしたという。
「昨年8月に終了したキャンペーンですが、覚えてくださっていて、『自分で切り貼りして完成させた紙面も持っているけれど、1枚刷りになったものも欲しい』という方が大勢いました。また、『お風呂場に貼りたいので、防水加工のものを作ってくれないか』『海外の人に配りたいので、英語版を作ってほしい』『いつも身近に持っていたいのでA4サイズで作ってほしい』など、予想もしていなかったいろんなリクエストが寄せられています。イベント協賛から始まった企画ですが、点から線、線から面、面から立体的な展開へと、どんどん可能性が広がっています」
BtoB企業と一般消費者を結ぶことに成功した今回のキャンペーン。安原氏は、今後も新聞メディアの特性を生かした広告に挑戦していきたいと意気込む。
「振り返ると、元素を広告の素材にしたらどうかという企画が持ち上がった時に、『面白い!かつてない試みだが、何がなんでもやってみたい!』と思ったんです。メッセージを発信する側がそういう確信を持てるかどうか、『これこそ伝えるべき本物の情報だ』と心底思えるかどうかがすごく大事なことだと改めて実感しました。一度きりで終わらせず、さらに進化したコミュニケーションを探っていきたいと思っています」
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