2022年10月20日「新聞広告の日」の朝日新聞(全国版)朝刊に、「2022年はまだ、愛の年にできる。」というメッセージとともに、各業界でライバルとも言える他者同士が新聞広告を通して讃えあうプロジェクト「#2022年を愛の年に」が掲載された。本企画は、アイドルの「SKE48」と「にじさんじ」、セ・リーグ王者とパ・リーグ王者、人気サッカー漫画の『アオアシ』と『ブルーロック』が讃えあった企画で、SNS上で約1万件の投稿を生み出し、約2,000万インプレッションを記録。大きな反響を呼んだ。
朝日新聞社とタッグを組んで本企画を手がけたのは、The Breakthrough Company GOのプランナー・小林大地氏と、同ビジネスプロデューサー・小堀央雄氏を中心とするチーム。小林氏は新規事業から広告・PR企画までアイデア開発を幅広く行い、本企画ではクリエイティブディレクターを務めた。小堀氏はプロジェクトマネジメント・事業プロデュースのリーダーとして、本企画ではスポンサーセールスをはじめとする企画プロデュースの責任者を担当した。
新聞広告の新しい使い方を提示し、読者の心を動かした両者にお話をうかがった。
「国民全不安時代」において、生活者に寄り添うメッセージを
──今回のプロジェクトを企画した背景について聞かせてください。
小林:「新聞広告の日プロジェクト」は、朝日新聞社とThe Breakthrough Company GO(以下、GO)が、新しい新聞広告の使い方を示そうと2019年に始まった取り組みです。
2019年は見開き30段全面に漫画を展開した「朝日新聞社×左ききのエレン」プロジェクト、2020年は広告のアイデアを一般から募って掲載する「#広告しようぜ」プロジェクト、2021年は高齢者のスマホサービス利用を啓発するプロジェクトを展開。毎年、多くの話題を生み出し、3年連続で新聞広告賞も受賞しています。
過去3回は、GOの代表の三浦がクリエイティブディレクションを務めましたが、今回は僕がその役目を引き継ぎました。制作に際してまず行ったのは、話題になる広告の検証です。その結果、次の3つの要素のうち、どれかに新しさを含む企画は話題になることに気づきました。
1つ目は「#広告しようぜ」のように制作者を変える企画。2つ目は「朝日新聞社×左ききのエレン」のように構造で遊ぶ企画。そして3つ目はメッセージを尖らせる企画です。 そこでこの3要素を念頭に置きながら、並行して「2022年に、企業が新聞広告を通して発信すべきことは何か」という視点で企画を考えていきました。2022年を象徴する事象として注目したのが、内閣府が同年1月7日に公表した「国民生活に関する世論調査」です。
この調査によると、日常生活での悩みや不安について「感じている」「どちらかといえば感じている」と回答した人は77.6%に上り、過去最高を記録。実際、コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻、安倍元総理に起きた未曾有の事件など、2022年は生活者の悩みや不安を増幅させる出来事が多く続きました。
この「国民全不安時代」においては、社会に愛を増やすような企画が求められているのではないか。そこから、去年でも来年でもなく、今年発信する意義がある新聞広告ではないか、という思いに至りました。
──プロジェクトのコンセプトや、ライバル同士が紙面でリスペクトを贈り合うアイデアはどのようにして生まれたのでしょう。
小林:過去3回の「新聞広告の日」プロジェクトのコンセプトは、2019年が「新聞広告で、若者の心を動かす」、2020年が「新聞広告で、読者を実際に動かす」、2021年が「新聞広告で、社会を動かす」というものでした。「動かす」という言葉を中心に据えた、力強い企画が多かったのですね。
ただ今年は、そうした攻めの姿勢を時代が求めていない気がして、「動かす」よりも「寄り添う」スタンスが適しているのではないかと。そうした中で、「新聞広告で、読者に寄り添う」をコンセプトに掲げ、「2022年はまだ、愛の年にできる。」というメッセージや、ライバル同士が新聞広告の中で讃えあうという企画が生まれました。
小堀:「国民全不安時代」の中で、みんなが支えあい、協力しあわなければいけないはずなのに、SNSなどでは一方的な誹謗(ひぼう)中傷や、リスペクトのない発言が無数に生まれています。様々な議論が生まれたとき、相手へのリスペクトがないと、ただ分断を生むだけの結果になってしまいます。
そうしたムードに逆らって、前向きな議論が進むようなメッセージを届けられないかとチームで話し合いました。しかも「愛をもって相手に接しましょう」と伝えるだけではなく、「広告=自社の宣伝」という枠組みを超えて、実際に他者を褒めることで、より一層強い企画にしていこうと。今回の企画だけで解決できることがなくても、感謝や尊敬の気持ちを近くにいる人に伝えるきっかけを、まずは作れればと考えていました。
──広告主が決まっていない中でのスタートでした。
小堀:ライバルを讃えるというのは企業として勇気がいることです。「企画には大いに賛同するが、正面から競合企業を讃えることは難しい」と断られるケースもありました。一社が快諾してくださっても、もう一方の企業に断られるケースもありました。
それでもプロジェクトを邁(まい)進できたのは、扉にあたる宣言広告で発信したように、「2022年はまだ、愛の年にできる。」という切実な思いが、朝日新聞とGOのチーム間にあったからです。結果的に、すばらしい3組の「讃えあい広告」が実現し、老若男女に幅広く支持されるラインアップとなりました。
──クリエイティブにおいて留意したことは。
小林:大きく3つあります。1つ目は、端的に言語化できる企画であること。表現の美しさ以前に、「讃えあい広告見た?」「ライバル同士が一緒に載っている紙面見た?」などと、企画そのものの新しさや違和感を言語化しやすい企画をつくり、拡散を生むことを狙いました。
2つ目は、新聞広告が伝えるべきメッセージを伝えること。強い影響力を持つマスメディアであり、時代観を打ち出す使命を持つ媒体だからこそ、新聞が発信すべきメッセージを開発できている。その点を強く意識し、企画を考えていきました。
3つ目は、読者が見たいものを作れているか。「讃えあう」という企画において、核心を突いていない点を讃えあってしまっては、当事者やファンの方々の賞賛を得ることは難しいと考えました。例えば『アオアシ』と『ブルーロック』は、それぞれの作者がコメントを寄せてくださっていますが、コピーライターの小比類巻が全巻読んだ上で、讃えあう内容や、讃えあい方のディティールを、入稿直前まで丁寧に検証しました。
新聞への出稿は、直接会いに来てくれることの重さに近い
──「ライバルを讃えるというのは企業として勇気がいること」というお話がありましたが、何が出稿の決め手になったと考えますか?
小林:今は、企業や個人がお金をかけずにメッセージを発信できる時代です。だからこそ、新聞にメッセージを掲載することの重みが増していて、そのことが出稿の決め手のひとつになったのかなと思います。
例えば普段の生活で誰かとケンカをしたときに、オンラインメッセージで謝るのと、わざわざ会い行って謝るのとでは、誠意の伝わり方が変わります。「What to say」は同じでも、直接会いに来てくれた方が相手は「自分を思ってくれている」と感じますよね。新聞への出稿を選ぶということは、直接会いに来てくれたことの重みに近い気がしています。 今回打ち出したメッセージは、トーン&マナーは優しくほがらかでしたが、読後感は広告主の覚悟が伝わるものになっていたと思います。例えば「SKE48」と讃えあった「にじさんじ」は、新聞を使うことでよりマスに出ていこうとする姿勢や、人間のアイドルに並ぼうとする覚悟を示しました。そしてそのことに、多くのファンが賞賛を寄せてくれました。
また本企画は、「他者を讃える」というフォーマットを使いながら、結果として広告主自身が言いたいことが伝わる仕掛けになっており、実は企業広告として機能している点も、出稿の決め手になったポイントだったと思います。
──話題づくりを狙う上で工夫したことは。
小林:大きく分けて、2種類の声が生まれる状況を設計できたことが、話題につながったと考えています。
1つ目は、ファンの方々の声。「推し」の存在が誰かを讃えたり、誰かに讃えられたりしている姿を喜んでくれて、ファンの方々がSNSへの投稿を通じて、お祭りに参加してくれた。それが嬉しかったですね。
2つ目は、企画のメッセージに対する共感の声。扉のメッセージとボディーコピーに対して「今まさに言ってほしいことを言ってくれた」と共感してくれる読者も多く、これもうれしいことでした。一般的に読者の話題に上りやすいのは、スキャンダルやネガティブなニュースです。本企画はそれとは正反対の、真正面から愛を伝えるメッセージでしたが、結果的に大きな反響につながったというのは一つの自信になりました。 ポジティブな情報が、社会に増えていくきっかけのひとつを作れたとすると、それほど幸せなことはありません。
──本企画に関連するツイート数は1万件近くに上った他、掲載紙面がメルカリで販売されたり、著名人のブログやウエブメディアで取り上げられたりしました。
小堀:SNSで反響を生みたいとはもちろん考えていましたが、「炎上リスクを回避できるか」という視点での情報設計も、冷静に考えていきました。せっかく愛ある声を増やそうと呼びかけても、企画に対するファンの方々のネガティブな声が広がってしまっては、僕たちがつくりたかったポジティブな会話を増やすことはできません。
そこで、各企業様に投稿素材を提供し、ソーシャル上での情報発信を依頼することはもちろん、プロジェクトの趣旨まで丁寧に説明を行い、コンテンツに所属するメンバーの皆さんから、ファンの方々のポジティブな投稿を呼びかけてもらえるよう、丁寧に調整を行っていきました。
掲載当日には、「SKE48」のメンバーの皆さんが、フォロワーの方々にポジティブな発信を促してくださり、結果ポジティブな投稿に溢れ、ファン同士が讃えあっているうれしい現象も見られました。
「見立て」と「逆張り」に新聞広告の可能性
──本企画を通して新聞広告の可能性についてどのように感じましたか?
小林:2つの意味で、可能性に満ち溢れていると思っています。1つは人々の指針となる「見立て」を発信するメディアとして最適であること。先の見えない混沌とした時代だからこそ、求められていることだと思います。
もう1つは「逆張り」がしやすいメディアであること。紙という特性や、5段、7段、15段といった広告の枠組みなど、当たり前に続いてきた歴史を壊すことができる余白が、新興のソーシャルメディアよりも大きいと思います。
小堀:新聞が持つ信頼性とともに、保存性が強みだと思います。今回もSNSでの拡散が進むほど、「手に取って現物を見てみたい」「所有したい」という動きが見られました。そこに新聞広告の価値と可能性を感じています。
──朝日新聞とタッグを組んだご感想をお願いします。
小堀:とにかく密にコミュニケーションを取ってくださり、企画の相談、協賛企業のご案内など、様々なご協力をいただき、ディスカッションしながら企画のクオリティーを高めることができました。一緒に動いてくださった朝日新聞のプロデューサーの実行力、実現力に感謝しています。朝日新聞社の企業理念である「ともに考え、ともにつくる」を実践している新聞社であることをつくづく実感させてもらいました。新しいことにチャレンジするパートナーとしてすごくやりやすかったです。
小林:積極的に新しいことやおもしろいことにチャレンジしている新聞社というイメージがありましたが、今回改めてそれを感じました。また、発注側と受注側という関係性ではありますが、ワンチームとして取り組んでいる感覚がありましたね。
──最後に、制作する上で大事にしていること、今後手がけていきたいクリエイティブなどについて教えてください。
小林:僕が常に意識しているのは、企画を構成する要素を因数分解し、誰もいじってこなかった点を、「極端にずらす」ということこと。構造的に新しい企画は、言の葉に乗って、多くの方に届いていきます。そういう意味で言うと、今回はまさしく企画者として、大切にしていることが実現できた企画でした。
そしてもう一つは、物事の捉え方を変えることで、この社会が生きるに値する世界であると伝えること。そもそも僕が広告業界に入りたいと思ったきっかけは、震災のあった2011年にBEAMSが展開した「恋をしましょう」キャンペーンでした。あの広告を見たときに、「決して今もイージーな社会ではないけれど、本企画においても誰かの生きる励みになることをしたい」と考え、その思いを大切にしながら制作に臨みました。今後も、生きる励みとなる企画を、現場で足掻きながらたくさん作っていきたいです。
小堀:僕にとっても、今回はやり甲斐のある仕事でした。「今の社会に必要なメッセージは何か」という視点を起点に、考え始められたこともあり、自分たちの思いにより近いことができた気がします。広告というと一般的には「見たくないのに一方的に情報が目に入ってくる煩わしいもの」と捉えられがちですが、ほんのひとときでもほっこりした気分になれたり、ちょっとした気づきになったりするようなコミュニケーションを、これからも手がけていけたらと思います。
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