「森を育て、森林資源を活かす」取り組みを、いかに多くの人に知ってもらうか
王子ホールディングスのルーツは、1873年に渋沢栄一の提唱によって設立された「抄紙会社」。1910年代に洋紙の国内自給体制を確立し、その後の日本の経済成長を支えてきた同社は、時代の変化にあわせて事業構造を転換してきた。現在は国内外に約58万ha(東京都の約2.5倍の面積に相当)の森林を保有し、森林資源に根づいた多様な事業をグローバルに展開している。
「弊社は2012年に王子ホールディングスとなり、社名から製紙という言葉が取れました。そのため、一般の方には社名から何をしている会社なのかがイメージしづらくなったこともあるのではと思います。常々、弊社の事業や取り組みを、幅広い人に知っていただくためのコミュニケーションの必要性を感じていました。また2022年5月に定めた『森林を健全に育て、その森林資源を活(い)かした製品を創造し、社会に届けることで、希望あふれる地球の未来の実現に向け、時代を動かしていく』とのパーパスの認知を広げ、企業ブランドの価値を向上させていくことも大きな課題でした」(池田氏)
王子ホールディングスはBtoB企業ということもあり、一般の人向けのPR活動はこれまでそれほど積極的には行ってこなかった。しかし同社は単に、紙製品を製造販売しているだけの会社ではない。国内外に約58万haもの森林を所有し、森林資源を持続的に循環させることで、事業そのものがサステナブルな社会の実現に貢献する。そんな同社のパーパスを、もっと幅広い層に知ってもらう必要があったというわけだ。
「森林には二酸化炭素の吸収・固定だけでなく、洪水の緩和や水質の浄化、防災や生物多様性の保全、健康増進といったさまざまな機能があります。さらに森林資源を活かした木質由来の製品は、化石資源由来のプラスチックや燃料に代替するものとして注目されています。そんな多様な価値をもつ森林を健全に育て、木を伐って使ってはまた植えるサイクルを私どもは国内外で回しています。弊社の取り組みを、より多くの方に知っていただくうえで、150周年は絶好の機会だと考えたのです」(池田氏)
トラウデン直美さんの起用で環境意識の高いZ世代に、AERAで働く女性にアピール
同社では150周年を記念し、特設サイトを開設。会長、社長のメッセージや、創業以来の歩みを映像化した動画も制作し、紹介している。また、記念コンサートや記念植樹などの各種イベントを1年かけて実施していくという。さらに幅広いステークホルダーにパーパスや今後のビジョンをアピールすべく、朝日新聞本紙やデジタルマガジン「&」、「AERA」やテレビCMなどを立体的に連携させたキャンペーンを実施した。
「なるべく多様なメディアをミックスして展開したいとの私どもの要望に応え、朝日新聞社から新聞、ウェブ、雑誌、テレビ、中吊りなどを連動させ、統一感あるかたちでパーパスを訴求する企画を提案いただきました。とくに環境意識の高い方、未来を担うZ世代に訴求したかったため、日頃から環境関連やZ世代を意識したコンテンツに力を入れている朝日新聞社の媒体は打ってつけでした」(鈴木氏)
このキャンペーンでは、創立記念日となる2月12日の朝日新聞朝刊にて「森を育て、森を活かす。」と題した磯野裕之社長、渋沢栄一の玄孫(やしゃご)である渋澤健さん、モデルのトラウデン直美さんによる鼎談(ていだん)記事を掲載。トラウデンさんは環境問題やSDGsに関する発信や活動にも積極的な、Z世代を代表するオピニオンリーダーだ。13日発売の「AERA」には、木村恵子編集長が磯野社長に、同社の環境問題への取り組みや今後の展望を聞く対談企画を掲載。東京メトロでAERAの中吊り広告を実施するとともに、2月12日と13日には、テレビ朝日でトラウデン直美さんが出演するCMをオンエアした。
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さらに朝日新聞社のデジタルマガジン「&」内に立ち上げた「&Morinnov.(アンドモリノブ)」に朝日新聞や「AERA」の鼎談、対談記事を掲載。3月以降もトラウデン直美さんを起用したコンテンツなどを継続的に発信していく。
「新聞は今回の創立記念日のように、その日ならではの記事を載せられることが大きなメリットです。全国メディアだけに、掲載直後の反響はとても大きなものがありました。いっぽうウェブは過去のコンテンツを蓄積でき、いつでも何度でも見られることがメリットです。『&Morinnov.』はまさにそのための仕組みです。今回はAERAも活用することで、20代、30代の働く女性 にもしっかり訴求することができました」(池田氏)
「トラウデン直美さんの起用は朝日新聞社からの提案でしたが、結果的には大成功でした。彼女は単に知名度や人気があるだけでなく、何ごとも自分の頭で考え、自身の言葉で語ることのできる方です。彼女の率直な反応や言葉を通し、押しつけがましくないかたちで、Z世代に共感をもって読んでいただける記事になりました」(鈴木氏)
メディアを上手に使い分け、継続的にアピールできる仕組みづくりを
最後に鈴木氏に新聞社への期待を、池田氏に今後の同社のコミュニケーションに対する抱負を聞いた。
「新聞社の強みはなんといっても圧倒的な信頼性の高さです。今回はとくに初めての試みだったので、ウェブも含めすべてを新聞社にお願いできたことは、大きな安心材料となりました。今回コラボして、新聞社のドメインの力は非常に大きなものがあると感じました。日頃から一般の方に向けて多様なコンテンツをつくっている新聞社の方は、私どもにはない発想を持っていると感じています。今後もそのような企画に期待するとともに、新聞社のみなさんとともに、よりよいコンテンツをつくっていきたいと考えています」(鈴木氏)
「弊社は一般向けのコミュニケーションを始めたばかりで、この度のキャンペーンは最初の大きな一歩となりました。この企画を通して学んだことを生かしながら、今後もより高付加価値的なコミュニケーションに取り組んでいきます。企業コミュニケーションやPRを単発で終わらせず、継続的にアピールできるしかけをつくることが大事です。時代の変化やターゲットに合わせてメディアをどう使い分けるかもよく検討しながら、より持続的に効果を発揮できるか、これからも模索していきたいと考えています」(池田氏)
【&Morinnov.(アンドモリノブ)】 https://www.asahi.com/and/morinnov/