化学って面白い! 関心を高めるためのきっかけづくり
__まず、日化協について教えてください。
進藤 日化協は、化学製品製造業者などにより構成される業界団体です。官公庁や学会、国際化学工業協会協議会や関係機関と連携し、会員企業や一般の方々に有益な価値を提供し、社会の持続的成長への貢献を目的に活動しています。
__具体的に、どういったことに取り組んでいるのですか。
進藤 今年度の重点的な取り組みは、三つあります。一つ目が温暖化問題に対する対策としてのカーボンニュートラルの実現を含む、「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」の取り組み推進、二つ目が「国際協調」の推進、三つ目が「安全・化学品管理」の取り組みの実施です。サステナブル社会の実現は日本だけの問題ではありません。安全、化学品管理の取り組みは、化学産業が存続するためにも大前提となります。
これらの取り組みを推進するためには社会との密接なコミュニケーションが欠かせないと考えています。そのうちの一つが、子どもたちや青少年向けに化学の有用性や魅力を伝える啓発活動です。SNSやYouTubeのほか、化学実験イベントなども開催しています。
それらは日化協単体で行うものだけでなく、日本化学会、化学工学会、新化学技術推進協会と日化協の4団体で構成する「夢・化学-21」委員会で取り組んでいるものも多くあります。
市岡 「夢・化学-21」は、色々な団体から構成されているのですね。
進藤 そうなんです。主に子どもたちに化学の魅力や楽しさを伝える化学関連のイベントの開催やSNSを利用した実験動画の配信などを行い、化学に触れられる機会を広く提供しています。たとえば、公式YouTubeチャンネル「子ども化学チャンネル」を立ち上げ、化学実験に関する動画を公開しています。
2022年から会員企業の方々に協力いただきながら、実験動画も公開しています。2024年8月には新コーナー「化学マン」も立ち上げました。ケミカルエンターテイナー「化学マン」は身近な化学実験を行いながら、子どもたちに化学の楽しさを紹介しています。
化学に関するイベントも開催しており、その中で最も大きな企画は毎年8月第一週の週末に東京・科学技術館にて開催している「夏休み子ども化学実験ショー」です。2024年は29回目の開催で、15の化学企業・団体による化学実験教室、クイズショーなども行われました。今年の来場者は4,000人超。子どもたちの目がキラキラ輝く様子がとても印象的で、大盛況でした。
市岡 以前、働いていた職場が科学技術館にあり、「夢・化学-21」のイベントに立ち寄らせていただいたこともあります。
進藤 日化協単体でも、青少年を中心とした若い世代向けへの情報発信に取り組み、YouTube、TikTok、Instagram、およびXで公式アカウントを開設しているんですよ。今年度は「元素さんに聞いてみた!」と「明日、話したくなる化学トリビア」の2つのシリーズを制作・展開しており、好評をいただいています。
__では、続いてGENKI LABOについて教えてください。
市岡 GENKI LABOは、5年前に立ち上げた会社です。「多くの方に科学への興味を深めてもらいたい」「たくさんの科学者の卵を育てたい」という思いから、YouTube「GENKI LABO」をメインとしてTV出演やサイエンスライブなどを行い、商品開発なども手がけています。
社会を変えるような素晴らしい技術が生まれるのは、何万に1つという割合です。ただ、山の裾野が広くなると山の頂点も上がるように、多くの活動が将来の科学者を生むことにつながり、将来の日本の科学力が高まるのだと思います。理系に進む人を少しでも増やすために、科学に興味のない人にも関心を持ってもらえるような動画づくりを行っています。
目指しているのは、再び日本が世界のトップとなれるような社会の実現です。5年前、僕1人から始めた事業でまだまだ小さいですが、仲間を増やしながら活動を加速させていきたいと思っています。
進藤 科学に興味がない子どもたちにも働きかけていくことは、とても重要なことですね。GENKI LABOの取り組みは、私たちの活動と親和性があると考えています。
「化学の日」を業界全体で盛り上げる、気運を高める新聞広告
__10月23日の「化学の日」に、日化協は朝日新聞朝刊に全15段の広告を掲載しました。まず、化学の日とはどういったものなのでしょうか。
進藤 アメリカで1991年5月に、10月23日を「モルの日」とする財団が設立されたのが始まりです。その後2013年に、日本でも日本化学会、化学工学会、新化学技術推進協会、および日化協の4団体が10月23日を「化学の日」と制定しました。その日を含む月曜日から日曜日までの1週間を「化学週間」とし、化学に関連するさまざまなイベントや活動を行っています。
10月23日に制定されたのは、「アボガドロの法則」にちなんでいます。アボガドロの法則とは、同じ圧力、同じ温度、同じ体積のすべての種類の気体には同じ数の分子が含まれるという法則です。物質量の基本単位である1モル中に含まれる気体分子の数は、約6.02×1023個であり、これをアボガドロ定数とよびますが、10の23乗から10月23日を化学の日としました。
市岡 1年に1度、化学をテーマに盛り上がれる日があるのは、情報を発信する側としても、とても喜ばしいことだと思っています。日本全体で化学を盛り上げる日として、もっとたくさんの方に知ってもらいたいですね。
新聞広告で化学業界全体の認知度とイメージ向上を目指す
__化学の日をPRするために、新聞広告を活用した理由は?
進藤 新聞の強みは、読者層の広さだと思っています。新聞は依然として広範な読者層にリーチするメディアです。特に全国紙や地方紙では、地域や年齢、職業を問わず多くの読者に情報を届けることができます。新聞広告によって、化学の日に関連するメッセージが幅広い層に届きやすくなると考えました。
そもそも、日本で「化学の日」を制定した最大の目的は、化学や化学産業の魅力や重要性を広く社会に伝えることです。化学は、私たちの日常生活から産業、環境保護、医療、エネルギーなどあらゆる分野において不可欠な役割を果たしています。
ただ、日常の中で当たり前になっていることが多く、化学の恩恵や貢献が見えにくくなっているんですよね。その重要性が一般の方々に十分に理解されていないことも多く、その点が課題です。「化学の日」をきっかけに、より多くの方が化学に興味関心を持ち、その素晴らしさや重要性を知ってもらいたいと思っています。
市岡 少し前、ある芸人さんが「理科なんて学校を卒業したら使わないものなのに、なぜ勉強する必要があるのか?」とお話されていて、とても衝撃を受けました。身の回りのものは、すべて化学でできているのですが、そのことに気付いていない人は少なくないんですよね。たとえば、毎日使っている石鹸やシャンプー、日焼け止めなども、化学の力が欠かせません。
まずは、世界がすべて化学でできていて、とても身近なものでもある、ということを知ってもらう。そして、その素晴らしさや重要性に気づいてもらうことが大切だと思い、新聞広告の企画に、全力でご協力させていただきたいと思いました。日本の未来を再び豊かな社会にするのは化学だと思っています。ぜひもっとこの活動を知ってもらいたいです。
進藤 今回の取り組みは新聞紙面だけでなく、YouTube上でも「化学の日」をPRすることができ、このコラボレーションは非常に新鮮な取り組みだと考えています。GENKI LABOさんの知名度からも、今年は例年よりも多くの方に化学の日について知ってもらえたはずです。GENKI LABOさんのファンは子どもや学生が多いと伺っています。新聞では大人に、YouTubeでは子どもたちに伝えられると期待しています。
__今回、会員企業が複数社集まって連合して新聞広告を掲載しました。どのようなメリットがあると思いますか?
進藤 業界各社が揃ってメッセージを発信することで、化学産業の総合的な価値や貢献を強調しやすくなると思っています。狙いは、化学業界全体の認知度とイメージを向上させることです。一般の方々だけでなく、政策決定者や投資家などの関心を引くことも期待できると考えています。
化学の日スペシャル動画
__新聞広告を掲載後、何か反応がありましたでしょうか?
進藤「今回の掲載をきっかけに化学の日を知りました」「アボガドロ数が関係しているのは知らなかった、勉強になった」といった反響がありました。化学の日を知ってもらえるきっかけになったと思います。
市岡 今回、友人が新聞紙面の写真を撮って連絡してくれました。情報発信後のリアクションはタイムラグがあるものなんですよね。これまでも大きなメディアに出た後、半年くらい経ってから問い合わせがあることは珍しくありません。
進藤 GENKI LABOのYouTubeを見て、学ぶべきことがたくさんあると気付きました。タイトルも興味を引くものが多く、どうやって考えられているかお聞きしたいと思っていました。実験テーマはどのように決めているのですか?
市岡 テーマになりそうな気になったことは常にメモをしていて、トレンドに合ったものをタイミング良く出すようにしています。海外のYouTubeを見て、そこからヒントを得ることもあります。
あと、リミッターはできるだけ外すようにしています。できそうなことだけに挑戦していると、新しい発見につながらないので、童心に戻って「まずやってみる」という心構えを大切にしています。
一番大切にしていることは、科学に興味がない人でも興味を持てるようなタイトルやサムネイルにすることです。タイトルではできるだけ専門用語は使わず、分かりやすい言葉を使うように気を配っています。タイトルやサムネイルに関しては、公開する前はもちろん、公開してからも反応を見ながら変更することもあります。
__市岡元気先生から、日化協や化学メーカーに期待することはありますか。
市岡 僕自身、化学メーカーに取材をして各社が具体的に取り組んでいることを知ると、今まで以上に興味がわきます。それは一般の方々にとっても同じだと思うんです。どんなものをつくって社会に貢献しているかを知ってもらえば、化学の道に進もうと思う子どもたちを増やすことにもつながるはず。今も取り組まれているとは思いますが、興味を持たせるための活動は継続していく必要があると思います。
進藤 そうですね。まずは知ってもらうことが大切で、子どもたちにとって何が面白いと思うかを探ることも大切ですね。科学に興味のない子どもたちが興味を持てるようアプローチするとの発想も「目から鱗」でした。今後の活動に対する大きなヒントになりました。今日はありがとうございました。