
コアファンに感謝の気持ちを届けたい
「週刊ヤングマガジン」で1995年から2013年まで連載された、しげの秀一氏作の漫画「頭文字D(イニシャル・ディー)」。“伝説の走り屋”と呼ばれた父親の英才教育を受けた主人公・藤原拓海が、各地の“走り屋”との対戦を重ね、“公道最速”を目指す物語だ。
同社は同作の連載30周年を記念し、6月6日付朝日新聞と読売新聞の朝刊にそれぞれ15段広告を掲載。ビジュアルはしげの氏が11年半ぶりに描き下ろした「頭文字D」のイラストで、2紙の広告を並べると1つの作品になる。
また、ストーリーゆかりの地を中心に、地域別にビジュアルが異なる新聞広告を展開。さらに「頭文字D」の後継作品である「MF GHOST」の連載完結と、両作の後継作品である新作「昴と彗星」の告知も行った。

──今回の広告展開の背景について、聞かせてください
私は「週刊ヤングマガジン」の編集部で「頭文字D」を担当し、その後、「頭文字D」のライセンス部門の責任者となりました。ライセンス部門では同作の後継作品「MF GHOST」のアニメ化に携わり、アニメ化によって「頭文字D」の人気が再燃して関連グッズが大変に売れました。
そこでしげの先生にお願いし、新たなグッズ用に「頭文字D」の人気キャラクター3人の描き下ろしイラストを11年半ぶりに描いていただきたいとお願いし、許諾をいただくことができました。
そのタイミングで私が宣伝部門に異動することになり、しげの先生の貴重な描き下ろしイラストをグッズだけでなく宣伝活動を通して広く伝えられないだろうかと考えました。その案を編集部に図り、最終的にしげの先生に許可をいただいたことで、広告展開が決まりました。

──訴求メディアとして新聞広告を選んだ理由は?
第一に「頭文字D」のコアファンに感謝の気持ちを届けたいという思いがありました。同作は今や海外でも人気のIP(知的財産)ですが、その原動力は連載当時から愛読してくださっているコアファンの熱い支持です。
同作のコアファン層は新聞の読者層との親和性が高く、また、全国紙の地方版の活用にも魅力を感じました。というのも、「頭文字D」で“走り”の舞台となるのは、主人公・藤原拓海の地元・群馬県をはじめ、栃木県、茨城県など北関東を中心とする地域です。
例えば栃木県の峠道で繰り広げられた“バトル”のシーンを全国紙の栃木県版で展開すれば、地元のコアファンはきっと喜んでくれると考えました。掲載メディアは、地域版ごとの紙面切り替えで実績が豊富な朝日新聞、さらに読者層の異なる読売新聞を選び、2紙の15段広告をつなげると一つの作品になる企画にしました。「頭文字D」で展開されるバトルは良きライバル同士のバトルなので、作品のテーマともマッチする仕掛けだったと思います。
クルマが好きでよかった。
— 『頭文字D』公式 (@initialD_PR) June 6, 2025
『頭文字D』30周年と『MFゴースト』完結を記念し
朝日新聞と読売新聞を繋ぎ合わせて完成する
「プロジェクトD再集合広告」を掲出しました!
しげの秀一先生約11年半ぶりの描き下ろしです!(1/16) pic.twitter.com/XMwY1gonFo
──群馬県版は、主人公・藤原拓海の父・藤原文太のイラストが入った限定デザインでした
「頭文字D」の主人公親子の地元は群馬県で、今年7月から連載が始まった「昴と彗星」の物語も群馬県から始まります。
そこで、群馬県版は特別な仕様にしたいとしげの先生に相談したところ、拓海のイラストの背景に使用できる文太と文太の愛車を描いてくれました。

実は、今回描き下ろされた文太の愛車は「頭文字D」の作中で彼が乗っていたクルマではなく、「昴と彗星」で乗っているクルマです。広告掲載時は新連載が始まる前でしたから、「頭文字D」のコアファンならば、「あれ? 文太の愛車が違う?」と思ったはずです。
つまり「昴と彗星」を読んでいただいて初めて「なるほど」と腑に落ちる仕掛けで、これはしげの先生のアイデアでした。また、描き下ろしイラストには、しげの先生の独特のタッチである “汚し”の点を入れてもらいました。
これも作品を読んでいる人ならピンとくるはずで、いずれもファンの皆さんに喜んでもらいたいとの思いから生まれた工夫でした。

──キャッチコピーの「#クルマが好きでよかった」にはどのような思いを込めたのでしょう
「頭文字D」の世界観は「MF GHOST」や「昴と彗星」にも引き継がれており、新作の展開にもぜひ期待してほしいとの思いを「クルマが好きだったから、拓海たちの物語が生まれた」「もちろんまだまだこれからも。」といったコピーに込めました。しげの先生にもコピーを見てもらい、「自分の思いと重なる」と言ってもらえました。
紙で親しまれた漫画だからこそ、告知は紙の新聞で
──新聞掲載の3日後の6月9日から同月15日まで、屋外広告を展開。作中に登場した自動車メーカー7社のクルマのイラストの掲示も話題となりました
新聞広告は15段単独でも完成するビジュアルですが、2紙の広告を並べたビジュアルを必ず見られる場所を一つ設けたいと考え、渋谷駅構内に掲示しました。
『頭文字D』に登場する7つのクルマメーカーと
— 『頭文字D』公式 (@initialD_PR) June 9, 2025
クルマ愛を宣言しました。(1/10)#クルマが好きでよかった pic.twitter.com/7sA4eEWUTm
「頭文字D」を知る訪日外国人や、青年漫画をあまり読まない女性の方々に見てもらう機会にもなりました。なお、自動車メーカー各社との連携は、博報堂の広告制作チームからの提案でした。1社でも乗り気でない会社がいたらやめましょうと伝えていましたが、全社が参加してくれることになり、驚きました。
講談社の公式Xに投稿した告知には、各メーカーの公式アカウントが引用リプライなどで反応してくれました。中には作品内のセリフを引用して盛り上げてくれたメーカーもあって、とてもありがたかったです。
──掲載後の広告の反響はいかがでしたか?
新聞広告掲載後、公式Xの告知投稿への「いいね」やリポストの数が急伸しました。紙面を写真に撮って投稿してくださる方や、「2紙ぶんコンプリートできた」と投稿してくださるファンもいました。また、公式Xで「朝日新聞では、コンプリート版を先着100名限定で、特設サイトにて販売いたします」と掲載前日に投稿したところ、朝日新聞より「朝6時の発売開始から4分で完売」との報告をいただきました。



※一部紙面(左から朝日新聞茨城県版、栃木県版、岡山県版)のみご紹介しています。
──広告施策全体の中で新聞広告が果たした役割について、どのようにお考えですか?
「頭文字D」は、しげの先生が紙の雑誌や単行本で読まれる前提で描かれ、読者にも紙で親しまれている漫画なので、紙の新聞での告知は最適だったと思います。しげの先生は作中のクルマはすべてご自身でペン入れをし、1台1台を生き物のような魅力的なキャラクターに描かれています。
それが新聞の大きさになるとまるでアートのようで、社内では新聞で見るしげの先生の漫画の迫力に感動する声が多かったです。
また、今回の新聞広告は、新作「昴と彗星」の初めての告知で、同作の告知サイトのQRコードも掲載しました。その結果、「頭文字D」「MF GHOST」に続く新作が出る!」と様々なメディアでニュースとして取り上げられました。
そうした波及効果も新聞広告ならではだったと思います。「昴と彗星」は、「頭文字D」と「MF GHOST」のエッセンスが詰まった、しげの先生の集大成と言える作品ですので、3作すべての魅力を今後も伝え続けていけたらと思っています。