昨年4月から朝日新聞の生活面で連載が始まった「55(ゴーゴー)プラス」。ボランティア活動、田舎暮らし、英会話、おしゃれ、スポーツ、ダンス、ペンション経営など、いわゆるシニア世代に広がっているさまざまな活動を取り上げ、楽しむ人々の日常や入門のノウハウを紹介している。読者の反応などについて、東京本社報道局文化くらし報道部の淺野眞生活担当部長に聞いた。
55歳から始められる趣味や活動の情報を提供
──「55プラス」の連載が始まった経緯は。
朝日新聞は、昨年3月31日付夕刊から文字を大きくしました。高齢の読者が読みやすくなったこの機をとらえ、この層に読んでもらうのにふさわしい企画を打ち出すことになりました。これまで生活面で取りあげてきたシニア向けの記事は、介護、医療、年金、バリアフリー住宅など、どちらかというと「備え」や「守り」のテーマに重きを置いてきました。むろんこうした記事のニーズはありますが、一方で、定年後の人生をいかに充実させるかという切り口も大事ではないかと考えました。当社が実施した調査でも、生活面の主要読者である50〜60代の多くが、趣味やスポーツなど「楽しさ」をテーマとする情報に期待していることがわかりました。
あるファイナンシャルプランナーの講演で、こんな興味深い話も聞きました。1日9時間働くビジネスマンが新卒から定年まで勤めた場合の生涯労働時間は約90,000時間。定年後の活動時間を1日12時間とすると12×365日、これに平均寿命までの年月をかけると約96,000時間。生涯労働時間よりも定年後に自由に使える時間のほうが長いというのです。極端な例だとしても、定年後に膨大な時間ができるのは確かです。そうした時間を有意義に過ごすための情報を提供したいという思いから「55プラス」はスタートしました。
──「55プラス」というネーミングに込めた思いとは。
当初は「シニア」という言葉が混ざったタイトルも候補にありましたが、「シニアと呼ばれたくない人も多い」との意見が複数の記者から上がりました。「55」は55歳、「プラス」は、「前向きな」「積極志向の」といった意味合いです。シニア世代になって新しいことを始めるときに、定年の5年前くらいから積極的に計画を立てておいたほうが何かと動きやすいですよ、こんなふうに前向きに楽しんでいる人がいますよ、といったメッセージを込めたネーミングです。
──紙面構成の特徴は。
取り上げる内容を「社会貢献」「生活・ライフスタイル」「学ぶ」「インドア趣味」「アウトドア趣味」「しごと」「健康・おしゃれ」の7ジャンルに分け、文化くらし報道部のほか、科学医療部、経済部、大阪生活文化部の記者がそれぞれの得意分野で取材・執筆しています。読者が紙面に接触する機会をなるべく増やしたかったので、1テーマにつき全4回のシリーズ展開としました。
シリーズの流れとしては、初回はテーマの体験者にご登場いただき、いきいきと輝いている姿を紹介しています。2回目以降は、実際に始めるときにどんな準備が必要なのか、どこの団体に問い合わせればいいのか、どんなことに留意すればいいのか、といった入門情報を提供しています。
これまで、「社会貢献」は、病院ボランティア、観光ボランティア、海外ボランティアなど、「生活・ライフスタイル」は、リフォーム、生活整理術、田舎移住など、「学ぶ」は、英会話、大学で学ぶ、パソコンなど、「インドア趣味」は、フェイスブック、詩、バンドデビューなど、「アウトドア趣味」は、天体観測、スキー、登山など、「しごと」は、資格で稼ぐ、店を持つ、コミュニティカフェの運営など、「健康・おしゃれ」は、髪のおしゃれ、男の着こなし、ネイルアートなどのテーマを取り上げてきました。
──記事づくりの工夫点は。
記者がローテーションで取材・執筆していますが、中心世代は30代で、読み手の目線に立った情報を意識的に集めていく必要があります。例えばスキューバダイビングの特集をしたときには、ダイビングの案内をしてくれる店選びについて、「若いスタッフばかりだと、中高年の体力やペースを理解されず、思わぬ事故の原因にもなりかねない」という記事を載せ、シニア世代ならではのポイントを示しました。激しいスポーツや健康に関わるテーマについては、ケガをしたり逆効果になったりしないように、留意点を示すようにしています。グッズなどの販売店を紹介する場合は、信頼できるお店を厳選しています。
世代的に病気に悩む人も多いので、「大病をしたが趣味があったおかげで前向きになれた」といった話題も積極的に取り上げています。逆に、世界一周旅行、豪華客船の旅など、多額のお金がかかるような趣味は取りあげていません。資本金のいる「お店を持つ」というテーマもありましたが、あくまでも地に足の着いた情報を届けました。
企業も紙面に注目。読者からは長文の感想が多数
──シニアの消費動向と、それに対する企業や団体の取り組みについて、どのように見ていますか。
ひと昔前のシニアとはいろんな意味で質が変わってきている気がします。団塊世代を中心とする人たちは、若いときから洋食の味を知り、アイビールックなどさまざまなファッションに親しみ、右肩上がりの経済成長のなかで車や持ち家も手にしている。いろんな経験をしているので「食わずぎらい」もなく、チャレンジ精神が旺盛です。
以前、経済面で、「シルバー世代太っ腹」と題する記事が載りました。60歳以上の人たちの旺盛な消費意欲を示す経済財政白書についての内容でしたが、「55プラス」の連載を通じて同じことを感じます。大学がシニアの授業料減免制度を打ち出したり、カラオケ大手がシニア割引を展開したり、会員の7割が50代以上の女性専用フィットクラブが登場したりと、かつてなかったシニア向けの施策も各分野で見られ、随時記事にしてきました。書店の丸善では、「55プラス」に掲載されたテーマに関連する本を並べて紹介してくれています。シニア向けのサービスや商品を紙面で取り上げてもらえないかという情報提供もあり、企業にとって魅力的なマーケットであることがうかがえます。
──紙面に対する反響は。
生活面のなかでも「55プラス」は反響が大きく、しかも感想の多くが長文です。「アウトドア趣味」「社会貢献」「学ぶ」といったジャンルはとくに好評で、スキーの特集に対して40通近くの感想が届いたときには驚きました。「学生時代はスキーざんまいだった。記事を読んでまた始めようと思った」という方も多かったですね。「若い時にできなかったことに挑戦するきっかけになった」という声もあります。世代的に学生紛争で満足に大学通いができなかった人も多いので、「大学で学びたい」というテーマなどは非常に関心が高かったです。
連載開始後、アスパラクラブの会員を対象に、各記事についてのアンケートも実施しました。「参考になった」と回答してくださる方が多かったほか、「こういう企画を特集してほしい」というリクエストもありました。今後の参考にしていきたいと思っています。
──今後の連載についての抱負は。
シニア世代は、多メディア時代においても新聞を一番の情報源としてくださっている貴重な読者層です。その期待に応え続けるために、医療、介護、年金など老後のリスク管理にまつわる大事な情報を届けつつ、人生を豊かに楽しくするニュースを見つけて紹介していきます。いずれにしても「使える情報」をきっちり発信していきたいですね。