大きな流動を生む地域を開拓し、路線ネットワークの拡大へ

 英国SKYTRAX社が運営する「ワールド・エアライン・スター・レーティング」において世界最高評価となる「5スター」を2013年から7年連続で受賞している全日本空輸(ANA)。A380型機の成田〜ホノルル線就航や、新路線の就航などのトピックについて、代表取締役社長の平子裕志氏に聞いた。

──今年5月24日、総2階建ての超大型機エアバスA380型機「フライング・ホヌ」成田~ホノルル線が就航しました。

全日本空輸 代表取締役社長 平子裕志氏平子裕志氏

 1便あたりの座席数が従来の約2倍となる520席に増えました。初号機が週3往復で就航後、2号機を投入して7月からは週10往復に拡大。3号機は2020年春に就航予定です。他社と比較して「ハワイ対決」などと騒がれることが多いのですが、ANAの原点は「売り方よし・買い方よし・世間よし」の三方よし。フライング・ホヌはそれが実現できる飛行機だと思っています。

 これまではハイシーズンはすぐに席が埋まってしまったり、ハワイの特典航空券が取りにくかったりということがありましたが、今後はより多くの機会をご提供できるようになります。また、プレミアムエコノミーや、エコノミークラス運賃+追加料金で、3席または中央4席をベッドのように使えるカウチシートなど、座席のバリエーションも豊富になります。ファーストクラスも新設し、「高価格でもいいのでこの時期に行きたい」というお客様のご要望にもお応えできるようになりました。

 また、ANAグループでは、地球温暖化対策、省資源化の促進、森林保護活動など、様々な環境保全活動を展開していますが、ハワイでも推進していきます。「フライング・ホヌ」の「ホヌ」はハワイ語でウミガメ。ウミガメは現地で「幸せを運ぶ海の守り神」として神聖視されていますが、絶滅危惧に瀕(ひん)しており、保護を目指してプラスチックごみや砂浜汚染の問題に取り組み、ビーチ清掃などを始めています。ハワイ州からは、日本からの訪問客の多様化や増加による経済効果は絶大と言っていただきました。地域の活性化という意味でも貢献していけたらと思っています。

──その他、最新のトピックについて。

 今年2月に羽田〜ウィーン線の運航を開始しました。ウィーンの魅力もさることながら、ウィーンは中欧や東欧への乗り継ぎがしやすく、その点でも大変好評をいただいています。

 さらに9月1日より、成田〜パース線の運航を開始します。パースは、旅の達人として知られた兼高かおるさんが「世界一美しい都市」と絶賛した自然豊かなオーストラリア西部の都市です。近年は日本企業の進出も目立ち、観光だけなくビジネスの利用も多いと見込んでいます。

 インドは成田〜デリー線とムンバイ線に次ぐ3路線目として、10月27日より成田〜チェンナイ線の就航を予定しています。インド南東部のチェンナイは自動車産業を中心に製造業がさかんな都市で、人や物の動きが活発化すると見ています。

──今後の課題は。

全日本空輸 代表取締役社長 平子裕志氏

 2020年の首都圏発着枠の拡大に向けて、路線ネットワークの拡大を図っていきます。国際線は未就航地「ホワイトスポット」への路線拡大が一つの柱となります。顕在化している需要だけでなく潜在的な需要をつかみ、路線の将来性や持続性を予測する必要があります。例えば中国の青島に就航を始めた1994年当時、青島に赴く日本のツーリストは少数でした。しかし同地の発展とともに観光でもビジネスでもにぎわう路線となりました。このように大きな流動を生む地域を開拓していきます。ご期待ください。

──東京オリンピック・パラリンピックを来年に控え、オフィシャルエアラインパートナーとして、所属選手やスポンサー契約の選手を数多く応援しています。

 スポーツマンシップは、ANAグループが目指すエアマンシップの精神に重なります。それはすなわち、相手を尊敬して、フェアに勝負するということ。またこの精神は、ANAグループで推進しているダイバーシティ&インクルージョンにも通じます。個人を尊重し、互いの強みを最大限に生かす組織を目指すというものです。こうしたことからグループ全体でオリンピック・パラリンピックを応援しています。

──今も心に残っている職務経験について、聞かせてください。

 1991年から4年間は国内線と国際線のダイヤを組むスケジューラーの仕事に携わっていました。国際線は1986年に開始以降18年間赤字が続き、そうした中で94年に関西国際空港が開港。90年代後半にはアジア通貨危機がありました。転機は99年のスターアライアンスへの加盟です。この頃私は、事業計画の部門でネットワーク戦略にかかわる仕事にあたっていました。ユナイテッド航空やルフトハンザドイツ航空など、アライアンスを組む海外の航空会社からデータを駆使した科学的手法を学んだ時期で、国際線の経営がどうあるべきか学んだのもこの頃です。

 いちばん心に残っているのは、羽田空港の旅客部長時代。2004年から約2年間、チェックインなどのお客様対応を行う空港係員約800名の陣頭指揮をとりました。800名の心を一つにするのは容易でなく、組織をどう導いたら従業員一人ひとりが生き生きと働けるか、お客様の満足につなげられるかを試行錯誤する日々でした。この経験が今に生きています。

──リーダー信条や座右の銘があったら教えてください。

 モットーは、誠実さと現場主義。私に上がってくる声は大勢の人を介するので、どうしてもフィルターがかかってしまう。現場に足を運んで誠実に話を聞くことが大事だと思っています。月に1度全社員に発信するメッセージも私に直接返信できる仕組みにしています。

 座右の銘は、フランスの生化学者・ルイ・パスツールの言葉「The chance favors the prepared mind.(チャンスは準備ができた者に微笑(ほほえ)む)」。備えてさえいれば何があっても自分に勝つことができると信じて、日々それに努めています。

──愛読書は。

全日本空輸 代表取締役社長 平子裕志氏

 子どもの頃はシャーロック・ホームズの物語に夢中になりました。社会に出てから影響を受けたのは『貞観政要』。動物の生態について紹介するユーモラスな内容に大事なメッセージが詰まっている『ソロモンの指輪 動物行動学入門』も大好きな本です。

平子裕志(ひらこ・ゆうじ)

全日本空輸 代表取締役社長

1958年大分県生まれ。81年東京大学経済学部卒。同年全日本空輸入社。2012年執行役員米州室長兼ニューヨーク支店長。15年全日本空輸取締役兼ANAホールディングス取締役。17年4月から現職。

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(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

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