アサヒ飲料が12年ぶりに、緑茶の新ブランド「アサヒ 颯」を発売。
「香りの良い緑茶でリラックス」という新しい価値訴求で差別化を図る

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 アサヒ飲料は2023年4月4日、緑茶の新商品「アサヒ 颯(そう)」を発売した。同社にとって緑茶ブランドの立ち上げは12年ぶりとなる。香りが特徴の微発酵茶葉「萎凋(いちょう)緑茶」をブレンドし、爽やかな香味でごくごく飲める緑茶を開発した。年間販売目標は500万ケース。「香りが良い緑茶による、気分転換やリラックス」という新しい緑茶の価値訴求で差別化を図り、成熟した緑茶市場の活性化も目指す。

アサヒ飲料が緑茶の主力ブランドを持てていなかった理由

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 「ペットボトルの緑茶は、清涼飲料水の中で特に大きなカテゴリーです。それにも関わらずアサヒ飲料は、緑茶の主力ブランドを持てていませんでした。これまで何度か緑茶ブランドを立ち上げてきましたが、競合との差別化ができずに撤退。とはいえ、総合飲料メーカーとして、社内では常に緑茶の新ブランドの立ち上げについて検討していました」と話すのは、アサヒ飲料マーケティング本部マーケティング二部 お茶・水グループ グループリーダー 星野浩孝氏。

 緑茶市場には、伊藤園の「お~いお茶」をはじめ、キリンビバレッジの「生茶」、サントリー「伊右衛門」、コカ・コーラ ボトラーズジャパンの「綾鷹」など、競合他社の主力ブランドが存在している。コンビニエンスストア各社でもプライベートブランドの緑茶が販売されており、「おそらく日本で緑茶の新ブランドを欲している生活者は、ほとんどいないのではないか」と星野氏。そうした厳しい状況だからこそ、独自の味わいの開発と、アサヒ飲料が緑茶ブランドを立ち上げる社会的意義を見いだす必要があると考えていた。

 特にアサヒ飲料は、これまで緑茶の味わいで差別化できていなかったという反省がある。「もちろん味には徹底してこだわり、どれもおいしかった。ただ、競合商品と飲み比べると、同じような印象でアサヒ飲料独自の個性があったとは言い難い。そのため、パッケージやブランドの世界観など情緒面での差別化にとどまり、ブランドを成長させることができませんでした」(星野氏)

1万2000人の調査から、差別化できるインサイトを発掘

 アサヒ飲料は緑茶の新ブランドの立ち上げに向けて、さまざまな調査を実施。「2年間で、約1万2000人に協力してもらった」と星野氏。その過程で発掘したのが「香りに特徴がある緑茶を飲んで、リラックス」というインサイトだ。
 まず、調査結果から見えてきたのが、お茶に対するニーズの変化だ。お茶を飲んで、リラックスや気分転換をしたいという生活者が増加していた。コロナ禍で行動が制限されたり、社会情勢が不安定だったり、デジタルデバイスが普及して情報過多であったりと、最近は特にストレスも増えている。そんな時代性も影響しているはずだ。

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 「調査で印象に残っているのは、ある20代の女性のエピソードです。会社帰りに外食する機会が減り、お酒を飲む機会も減っていた時期のこと。自宅で夜にジャスミン茶を飲むと、お酒を飲んだときのようにリラックスでき、一日の疲れをリセットできるというお話でした。その話をしているときの表情がとても明るく、お茶によるリラックスや気分転換といった価値に気付かされました」(星野氏)

 そこで、リラックスと緑茶をつなぐものとして考えたのが、「香り」だった。ジャスミン茶やルイボス茶、ほうじ茶など、香りに特徴がある無糖茶の市場を調べると、販売金額は2018年から5年間で16%増加、購入率は48%まで伸長していることがわかったという。「アサヒ飲料でも2022年に紅茶の香味が特徴の『和紅茶』を発売し、売れ行きは好調です。香りでリラックスできたというお客様からの声も届いていて、手応えを感じていました」(星野氏)

  緑茶市場はこれまで拡大してきたが、現在は成熟化し成長率は横ばいに推移している状況だ。緑茶の味わいについて調査すると、苦みが苦手という声が増加傾向にあり、ごくごく飲める爽快な味わいを緑茶で楽しみたいというニーズが増えていることが分かった。 香りに特徴がある緑茶を飲んで気分転換をしたり、リラックスしたりする。これは調査から発掘したインサイトである。香りやリラックスといったコンセプトを打ち出している緑茶の競合ブランドは存在していない。生活者のインサイトに応え、香りがいい緑茶という新しい価値を広げていくことは社会的意義にもつながると考え、開発のスピードを加速させたという。

古くて新しい萎凋緑茶との出会い

 商品開発では、香りのいい緑茶をどうやってつくったらいいのか、苦労が続いた。そもそも緑茶には、お茶の香りはある。それとは違う独自の香りとは、一体どういったものか。味わいに関する開発は、ゼロからのスタートだったという。「たとえば、ジャスミン茶や烏龍茶を緑茶に混ぜてみたこともあります。ただ、それだと緑茶ではなく、別の新しいお茶になってしまう。あくまでも私たちが目指したのは『緑茶』。誰もが緑茶と認める範囲内で、特徴的な香りをどうやってつくるか。何度も行き詰まりながら、試行錯誤を繰り返しました」(星野氏)

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 ブレイクスルーにつながったのは、日本最高位茶師十段 酢田恭行氏と出会い、香りが特徴の微発酵茶葉「萎凋緑茶」を知ったことだった。「味わいを模索しているとき、緑茶に詳しい専門家の意見を聞いてみようと、酢田さんを訪ねました。そのとき淹れてくれたのが、萎凋緑茶をブレンドした緑茶でした。収穫後の茶葉をしおらせることで茶葉が発酵して香気成分が発生し、華やかで爽快な香りを楽しむことができるというもの。このお茶を飲ませてもらったとき、一歩前進できると確信しました」(星野氏)

 萎凋緑茶は古来、日本で飲まれていたお茶だった。かつては茶葉の加工に時間がかかり、自然としおれてしまっていたのだという。その後、工業化や近代化に伴い、スピーディーに加工できるようになり、全く発酵させない「不発酵茶」が一般的になった。そうした歴史から、萎凋の香りはマイナスに評価されてきたという。 近年はその華やかな香りの特徴が見直され、萎凋緑茶が注目されるようになっている。ただ、手間のかかる製造方法のため、現在、日本での生産量は年間15トンで、荒茶生産量のわずか  0.02%(※)だ。※「2021年荒茶と萎凋緑茶生産量」アサヒ飲料調べ

 「萎凋緑茶は小さなカテゴリーですが、生活者の幸せにつながる価値があると信じています。それを世の中に提案できるのは、総合飲料メーカーの強みであり、役割であると考えました。これもアサヒ飲料が手がける社会的意義の一つ」と星野氏。大量生産の実現までも苦労があったが、2022年春ごろ、ある工場が協力してくれることが決定した。

 酢田氏は香りや味わいの監修を務め、アサヒ飲料とともに茶葉のブレンドの割合や抽出温度など調整を重ねた。そして、2回立ちのぼる華やかですっきりとした香りの緑茶が完成した。「口に入れて飲んだ瞬間と、飲んだ後に鼻から抜ける香りが特徴です。当社従来品の緑茶よりも、香りの量は2倍。科学的にも味を分析しています」(星野氏)

ストーリーを伝えながらブランドの育成を目指す

 アサヒ飲料にとって12年ぶりの緑茶ブランド名は「颯」。味わいの特徴が直感的に伝わってくる名称だ。ボトル表面には凹凸で施した波形ラインと、茶葉が舞っているグラフィックで、爽やかな香りを表現している。特に斬新なのは、ボトル全面をラベルで覆わず、颯の特徴でもある透明感のある黄金色の水色(すいしょく)を見せていることだ。緑茶といえば緑色と言われるようになったのは、実は最近のことなのだという。「かつては金色と山吹色で、金色透明(きんしょくとうめい)と表現されていたそうです。そんなお茶のルーツに立ち返り、お茶の色味を見せることにもこだわりました」(星野氏)

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 プロモーションでは、4月4日の発売と同時にテレビCMや、SNS、YouTube用の動画広告などを展開。モデルとして起用したのは、プロバスケットボールの八村塁選手と、ダンサーのRIEHATA(リエハタ)氏。「八村さんもRIEHATAさんも、自分の道を切り開いています。チャレンジしながら前に進み続けている様子は、新しい緑茶市場の創出を目指す『颯』と重なる部分があると思い、オファーしました」(星野氏)

 PRにも注力している。参考にしているのが、アサヒ飲料が2022年に期間限定で販売した「おいしい水 天然水 白湯」のPRだ。同商品は、PR戦略が奏功し、数々のテレビ番組やメディアで取り上げられたという。その成功体験をもとに、「颯」も戦略的にPRしていく計画だ。また店頭でのプロモーションとして、八村塁選手の等身大パネルなど、生活者がワクワクするようなツールを準備するなど、まずは香り、爽快さを端的に伝える施策を用意しているという。

 「アサヒ飲料がこのブランドを立ち上げた社会的な意義、茶葉やパッケージのこだわり、環境負荷低減の取り組みなど、『颯』にまつわるストーリーは、さまざまな切り口で語ることができます。特に社会的なストーリーは、新聞媒体との相性も良さそうです。PR活動は継続して行い、緑茶ブランドとして育てながら、新たなカテゴリーとして緑茶市場を盛り上げていきたいと思っています」(星野氏)