変化する環境で、生活者の気持ちとブランドをつなぐのはコピーライター

左から原田氏、坂本氏

 博報堂のクリエイティブ部門・統合プラニング局からさまざまな領域の強みを持つメンバーが登場し、変化するビジネスニーズにどのように向き合い実行しているかを紹介するシリーズ「トランスフォーメーションはカタチにできるのか」。第5回は、統合プラニング局の局長代理でクリエイティブディレクターの原田朋氏とコピーライターの坂本美慧氏が登場。コピーライターの仕事といえば、インパクトのあるキャッチコピーやリードを思い浮かべる人も多いだろう。だが、近年は商品や事業開発のビジョンやパーパス、コンセプトづくりなど、仕事の領域は増えているという。コピーライター歴24年の原田氏と、同9年の坂本氏に、コピーライターの仕事の移り変わりや、事業や経営への関わりや広がりの中におけるコピーの役割などについて聞いた。

コピーは言葉のUI。言葉づくりの重要度は年々増加している

──統合プラニング局でお2人はどんな仕事をされているのですか。

原田氏

原田:統合プラニング局には、仕事の相談がいくつも入ってきます。その仕事の多くは、課題はあるものの、どういったソリューションにすべきか、まだ何も分からないものが多い。たとえば、既存商品の売り上げが伸び悩んでいるので、今のやり方を大きく変えたいとか、新規プロジェクトを始めるので、そのコンセプトづくりから手伝ってほしいといった内容まで、多岐にわたります。その相談内容を局長の茂呂(譲治)と、もう1人の局長代理の小野瀨(学)と、僕の3人で精査し、統合プラニング局に在籍している120人のクリエイターの誰に担ってもらうか考え、アサインするという業務フローがあります。適性や各自のキャリアプランを踏まえて考えています。所属しているクリエイターを深く知るために、1on1で話す時間もつくっています。

──とても重要な役割ですね。

原田:クライアントの相談内容から考えられる課題を要素分解し、本質がどこにあるか探っていきます。これはPRが中心になりそうだとか、デジタルが軸になるだろうとか。僕らの役割は、統合プラニング局に所属する120人のリソースを最適に配分し、クライアントの課題にできるだけ正確に答えていくこと。茂呂と小野瀨は、デジタル起点の統合プラニングに強く、僕はコピーライターなので表現からの発想が得意。自分の話になりますが、僕はTBWA HAKUHODOに所属していたことがあり、quantumという会社ではイノベーション支援の事業開発なども手がけていました。3人それぞれが違う視点でクライアントの課題を見立てています。この仕事とは別に、僕自身も担当しているクライアントワークを行っています。

──坂本さんは今年の4月から統合プラニング局に配属になったそうですが、それまではどんな部門で仕事をしていたのですか。

坂本氏

坂本:2011年に入社して、最初に配属されたのがデジタルの部門で、主にマス広告以外の仕事を担当していました。たとえば、あるIT会社が、スマホでコントロールするロボットを開発しました。そのロボットは、人間とコミュニケーションをとれることが特徴です。その実力を多くのお客樣に体感していただくことで、機能性の高さを知っていただき、ブランドにも愛着を感じてもらおうという施策がありました。私は、そのために必要なロボットの名前やロボットが話す内容など、企画の段階から、言葉を生み出すところまでトータルで携わりました。今の部署に所属してからは、ある事業開発の仕事でプロジェクトネームを考えるところから携わっています。この仕事は、原田から声がかかったものです。

たしかに私はデジタルの部門に所属していましたが、もう9年前のこと。今とはデジタルの環境は違います。当時はデジタル広告の黎明(れいめい)期で、無人島にものを投げるような気持ちで言葉をつくっていました。誰にも届かないかもしれない。そんな前提で、コピーを考えていたんです。みんなが驚くようなことを言わないと、広告に気づいてもらえない。そんな状況でした。

原田:当時は、いかにみんなを振り向かせるか、が重要でしたよね。今はターゲティングのテクノロジーが進化して、情報を投げかける相手を決められます。まさに、無人島にものを投げる感覚とは真逆。スマートフォンの普及もあって、一気に進化しました。

坂本:デジタルの部門から、その後、主にマス広告を手掛ける部門に異動となり、2020年4月に統合プラニング局に配属されました。

──多様な仕事を経験して、学びになったことは。

坂本:テレビCMの仕事をするようになって、コピーはある一定の人たちには届くという前提になりました。そうなると、考えることも変化しました。強制的に投げかけられる言葉がどうしたら心地いいか。以前のデジタルの仕事とは、別の課題があることが分かりました。

原田:コピーライターの仕事といえば、キャッチコピーを考える人というイメージは強いですよね。でも、近年はそれだけではありません。さきほど坂本がお伝えしたように、ロボットのネーミングや、どんな言葉を話していたらロボットが愛され、ブランドの愛着につながるか、といったことを考えながら、言葉を生み出すこともコピーライターの仕事です。つまり、コピーは「言葉のUI」だと思うんです。

かつては、クライアントが開発した商品を、どう広告していくかを考えることが仕事でした。しかし、今はイノベーションの時代で、新しいものを生み出す意欲の高い企業やブランドは多い。そのため、商品が生まれる前の段階からクリエイティブのチームが参加し、新しい事業のビジョンやコンセプト、パーパス(存在意義・志)の策定などの仕事を手伝うことが増えています。

──ビジネスの根幹となる部分を決めていく、大事な仕事ですよね。キャッチコピーを生み出すときとは、考え方は違うのでしょうか。

坂本:比重の違いは、「WHAT TO SAY(何を言うか)」を考える時間です。言葉を生み出すのは、最後。パーパスの言葉も大切ですが、それをひもといたステートメントも重要です。その企業が世の中とどういう接点を持ち、どういう存在なのか。企業やブランドにとって指針となる文章なので、とても気を配ります。

原田:パーパスを生み出す上で鍵になるのは、この連載で藤平(達之)も言っていましたが、僕も各企業のオリジンにヒントがあると思っています。創業者が語っていた夢や希望、目指すべきことに感銘を受けて入社した人は少なくないはず。社内で大事にしている、創業者の言葉なども必ずあります。そういったキーワードを見つけることも大事なことです。

坂本:最近、ある大企業のグローバルパーパスを考える仕事をしています。社長をはじめ、各事業会社の宣伝部長なども集まり、グローバルで取り組んでいることや、課題などをヒアリングしています。それらを一つにまとめて、どういうメッセージで発信していくべきか考える。原田が言うとおり、私もオリジンに立ち返ることがポイントになると思っています。創業者が語っていた言葉を、今の世の中の人に伝えるとしたら、どういう言葉が最適なのか。世界ではどう伝わるのかなど、一つひとつ丁寧に考えていきます。

原田:そういった仕事は、過去・現在・未来の三つに分けて考えると分かりやすい。創業のときと現在の社会は、状況は違いますよね。ただ、同じところもあるはずです。どこが同じで、どこが変わったのか。そして、これからの未来、どう変わっていくだろうか。それを考えることも、未来のためのパーパスを考えるヒントになります。

──情報を整理する能力も求められますね。

原田:一緒に仕事をするビジネスプロデューサーや、ストラテジックプラナーの本質を見つける能力も頼りになります。最初の話に戻りますが、120人の統合プラニング局の精鋭たちの能力をどう発揮させていくか。見立てを間違えないように、日々努力しています。

次ページ:クライアントとユーザー、クリエーターが一体となってコミュニケーションを生み出している