変化する環境で、生活者の気持ちとブランドをつなぐのはコピーライター

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クライアントとユーザー、クリエイターが一体となってブランドを生み出している

──SNSが普及して、自らが手がけた仕事に対するリアクションが可視化されています。仕事に対するスタンスは、変化していますか。

原田:以前は、デジタルアドやデジタルマーケティングのことを、インタラクティブと呼んでいました。その意味合いは、変わりましたよね。僕は、インタラクティブが全領域化したと思っています。企業が商品を売り出しても、社長が会見しても、Twitterで情報発信しても、何かしら反応が返ってくる。もはや一挙手一投足がインタラクティブとも言えるでしょう。だからこそ、Twitterでのリアクションは、企業も注目しています。今のムードを察していることは、コミュニケーションを生み出す上でも必要なことです。

──坂本さんは、今のムードを知るために意識して行っていることなどありますか。

坂本:Twitterをはじめ、SNSはチェックしています。気になるニュースが流れてきて、Yahoo!にコメントがついたときも、内容は確認する。YouTubeも同様です。客観的に、どんな人たちがどんなリアクションをしているか。好意的なのか嫌だと思うのか、嫌なら、どういう嫌がり方をしているのか見ています。

原田:今のコピーライターは、人の気持ちのヒートマップのようなものを頭の中に持っていて、それぞれ自分なりのレーダーでキャッチしていると思っています。僕がコピーライターになった頃も、もちろん世の中のムードを察しながら制作していました。ただ、今は当時と比べたら生活者情報がとてつもなく多様化・精細化した。かつては、クライアントも「自社の商品を良く見せてほしい」という思いは強かったはずです。しかし今は「これで本当に好かれるか」「愛着を持ってもらえるかな」など、真剣に考えていらっしゃると思います。

僕らが扱っているのは、世の中の人の気持ちです。言葉というツールを使っているけど、生活者に気持ちを届けることが仕事。楽しい気持ちになってもらったり、幸せになれそうと期待してもらったり。気持ちをつくる仕事なんです。

──クライアントと信頼関係を築くことも重要ですね。

坂本:一番大事なことだと思っています。ある広告の仕事で、世の中に出すまで、好意的に受け止めてもらえるか分からない、という内容のものがありました。最後の最後に、本当に世の中に出すかどうか、話し合いました。クライアントと営業と制作チームが集まり、広告を出した後の起こりうることを挙げていったのです。どのようなリアクションがありえるか、それに対して自分たちは、どのような見解を持ち、どのような態度で臨むのか。万が一、ネガティブな意見が出てきたとき、どのような対応をするのか。全部話し合いました。その上で、クライアントは「出そう」と決断してくださった。誰のエゴでもなく、全員が納得できた。みんなの気持ちが一つになり、話し合うことは大事だと改めて実感しました。

──SNSの時代だからこそ、必要な一体感ですね。

原田:今はクリエイターもクライアントも、世の中の反応に向き合っているので、心を一つにして広告制作に取り組める。もっといえば、生活者の方々も、一緒にブランドをつくっているとも考えられますよね。ユーザーが広告に反応した内容を踏まえながら、クライアントも僕らも次を考えたりするわけですから。

──企業にとってコピーライターの役割は広がってきていると感じます。

原田:僕は、一社にひとり、コピーライターが所属している未来を思い描いています。情報が可視化されている時代だからこそ、クライアントもかつてのように「予算はこれだけ。あとは全部任せる」といったスタンスではなくなっています。「世の中の人にどういう気持ちになってもらうべきか」「どうやったら好きになってもらえるか」といったことを、クライアントは真剣に考えていらっしゃいます。コピーライターはそれを言葉というツールを使って届けるのが仕事です。

──時代の移り変わりが、非常に速いです。その変化には、どのよう対応していますか。

原田:たしかに1カ月前に制作したテレビCMを世の中に出すとき、ムードがガラっと変わっていることもありました。とても悩ましいのですが、編集している最後の段階でコピーを変えることは、以前より増えた気がします。それに対して、ほとんどのクライアントには理解して頂けますね。

坂本:私はコアな部分を変えた経験はありません。ただ、アウトプットが変わることはあり得ます。そのことに葛藤はない。目指すべきゴールは、伝えたいことを届けることですから。修正できる可能性があるなら、それにこしたことはないと思っています。

原田:最近は修正を前提にプログラムを組むこともあります。たとえば、デジタルは10パターンつくって、検証して一番リアクションが良かったものを残すといったケースもある。テレビCMも、地方都市でいろいろ試した後、評判が良かったものを全国で流すこともあります。

──クライアントの意識も変わっているんですね。

原田:コピーライターの仕事の領域は、僕が働きはじめた24年前より格段に広がっています。言葉を生み出す仕事は、これからも増えていくはずです。坂本にも期待しています。

坂本:ありがとうございます。期待に応えるためにも、コピーライターとしての能力を高めていきたいです。担当している仕事はどれも楽しいし、言葉が果たせる役割の広さを感じることに、やりがいも感じます。だからこそ、役割の幅と精度をあげていきたい。そのためだったら、どんな仕事でも全力で取り組んでいきます。

原田朋(はらだ・ともき)

博報堂 統合プラニング局 局長代理 クリエイティブディレクター

1996年博報堂に入社。TBWA HAKUHODO、LAのTBWA CHIAT DAY、スタートアップスタジオquantumを経て現任。JAAAクリエイターオブザイヤーメダリスト、カンヌライオンズPR部門2014審査員。日本の新しい競争力を経営者と創ることが今後の目標。

坂本美慧(さかもと・みさと)

博報堂 統合プラニング局 コピーライター

2011年博報堂入社。コピーライターとして配属。マス、デジタルコミュニケーションに加え、ブランドパーパスの考案などジャンルを問わず、最適な言葉を考える。2018年度TCC最高新人賞受賞。