メディアエンゲージメントが広告効果にもたらす意義

メディア環境が多様化する中、広告効果を測る方法論として、従来的な量的指標とは異なる質的な効果測定への枠組みが研究されている。中でも近年注目されているのが、「メディアエンゲージメント」という指標概念だ。メディアエンゲージメントの本質的な意味や、広告にもたらす可能性などについて、専修大学経営学部教授の石崎徹氏に聞いた。

媒体の文脈が関与する広告表現の質的効果

── 今、広告媒体における質的効果が、改めて注目されている理由は。

石崎 徹氏 石崎 徹氏

 広告媒体の質的効果の重要性は、以前から指摘されています。その研究が近年特に注目されている背景には、インターネット広告の登場をはじめとするメディアの多様化と、多様化に伴う量的効果の低下という側面があるからだと指摘されています。

 これまでメディアは、量的な指標を中心に評価されてきました。例えば印刷メディアであれば発行部数。テレビならGRPやフリークエンシーなどです。しかし、あるテレビ番組の視聴率が5%という評価だとしても、その番組がどのような内容か、出演者が誰だったのか、どのようなニュースや情報を伝えていたかなどで質的な効果は大きく変わってくるはずです。

 また、従来の質的な効果測定は広告を媒体から抜き出し、表現面を独立させて評価していました。その一方でメディアは量的な指標で評価され、両者は切り離されていたわけです。

 しかし、新聞読者やテレビ視聴者は、広告を目的にそのメディアに接触するわけではありません。まず何かの動機やタイミング、さまざまな関心をもってメディアに接触し、意識的・無意識的にその媒体の文脈を踏まえて広告を目にします。広告表現を広告媒体により強く関連づけることで、メッセージへの読者の関与度を高められるのではないか、という研究が進められてきました。

── メディアエンゲージメントとはどのようなものですか。

 メディアエンゲージメントとは、個人が対象となるメディアに引き付けられていたり、関与している「状態」のことを指します。私たちが「エンゲージメント」という言葉をもっとも一般的に使うのは、「婚約」という意味においてです。婚約というのは長期ではなく、短期に終結して結婚に至ります。エンゲージメントの対象は、メディアであったり、広告であったり、ブランドであったりします。

 近年ではメディアエンゲージメントという言葉を従来の「リレーションシップ」や「きずな」といった意味合いに拡大解釈して使われているケースが多く見受けられます。とりわけメディアエンゲージメントは、そのようなブランドと顧客との間に築かれた、好意を含む関係性ではなく、そこに至る入口のようなものです。

 新聞を例にとれば、これまで「あの新聞は知的な人が読んでいる」とか「情報の信頼性が高い」といった一般論としての評価は経験的にありましたが、「朝日新聞を見た時にどう感じるか」といったような心理的尺度はあまりありませんでした。メディアエンゲージメントの研究では、このような個人のメディアへの接触状態をさまざまな尺度から調査し、広告表現との相乗効果を検討します。

メディア選択の指標を読者視点で客観化

── メディアエンゲージメント研究は、どのような点で広告効果の向上に寄与できますか。

 この有用性には大きく二つの面があり、ひとつはメディアレベルでの親和性の検証です。例えばあるブランドを広告する場合、新聞がいいのかテレビがいいのか。ある媒体は他の媒体に対しどのように優位性があるのかといった評価に取り入れることができます。

 もう一点は、メディア選択をビークルに落とし込んでいった時、ターゲットやリーチなどが同等のビークルのどちらがブランドとの親和性が高いかを客観的に見る指標として有用です。

 また、反対に広告表現から見た場合には、そのビークルを目的に接触した読者を引き込むことを意識した広告制作に貢献できます。ちなみに海外では、同じコンセプトの広告でも、スポーツ誌と経済誌とファッション誌では少し表現を変えてエンゲージメントを高めるといった試みも登場しています。

── 新聞広告におけるメディアエンゲージメントの可能性とは。

 エンゲージメントの指標がしっかりしていくと、その新聞にどういう状態でかかわった時に広告効果が上がるかが分かってきます。そうすればまた従来の広告評価モデルの説得力を高めるのみならず、新聞紙面の作り方というところまで広告を意識した影響が出てくると思います。伝統的に続いてきた記事面の構成も変わってくるかもしれません。

 また、読者の視点を組み入れた質的な指標が生まれることで、各新聞社がそれぞれのコンテクストを生かした広告表現を追求することが可能となります。それは広告営業に携わる一人ひとりが、広告表現に対するより深い理解と提案力をもつことを要求されるということでもあるでしょう。

石崎 徹(いしざき・とおる)

専修大学経営学部教授

早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。専門は広告論、マーケティングコミュニケーション論。近著に、『わかりやすい広告論』(八千代出版)