「ジャーニーオーケストレーション」

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顧客とブランドの接点となる様々なチャネルで実践されている「カスタマージャーニー」に 基づいたマーケティング施策を、より包括的・リアルタイムにコントロールすることにより顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)を最適化する手法、およびその理論。

 顧客視点でのマーケティング施策を実践するうえで、カスタマージャーニーという考え方がここ数年で一般的にも広く定着してきた。カスタマージャーニーでは顧客体験全体を時系列にそったシンプルなストーリーとして表現するため、マーケターの顧客理解を深め、あらゆる顧客接点において連続性のある一貫したマーケティング施策を検討することができる。ブランドが提供する顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)自体の価値が重要視されるなか、欠かせない考え方になっている。反面、理想的なカスタマージャーニーであるジャーニーマップを描くことはできるが、実際の多岐に渡るチャネル横断でのマーケティング施策の実行やコントロールには多くのマーケターが悩まされているのではないだろうか。

 カスタマージャーニーの考え方は、日本では2012~13年頃から、メールを中心としたその実行ツールであるマーケティングオートメーション製品とともに広まってきた。マーケティングオートメーション製品は高度化を続け、マーケターにとって非常に利便性の高いツールとなっているものの、現段階ではカスタマージャーニーをツール単一で実践する場合には制限がある。具体的には、製品によっては自己完結型で特定のチャネルへの対応自体が困難であり、顧客データの収集や保持を外部の仕組みに依存するケースが多いため、リアルタイムでの施策のコントロールや範囲外のチャネルを含めたカスタマージャーニー全体の効果検証には不向きである。また、オフラインも含め、顧客接点となる全てのチャネルを単一の仕組みで管理していくこと自体が、ツール面以外にも企業の組織的な要素含め、そもそも現実的ではないかもしれない。そういった背景のなか、今後注目を集めていきそうな考え方が「ジャーニーオーケストレーション」である。

 ジャーニーオーケストレーションでは、チャネル毎に個々に機能する仕組みと連携し、チャネル横断で包括的にカスタマージャーニーの全体像をコントロールする考え方がポイントとなる。チャネル毎に専門性の高い機能は個々の仕組み「奏者」に任せ、自らは「指揮者」として振舞うことによって、複数のカスタマージャーニーのシナリオの中から最適なシナリオを判別し、シナリオ間を自由自在に移動していくイメージであり、顧客獲得・売上・費用対効果等のビジネス目標に合わせて、AIがシナリオ間の移動パスを自動で最適化するようなトレンドも今後予測される。また、もう1つの特徴として、ジャーニーオーケストレーションではリアルタイム性が重視される。あらゆるチャネルから顧客行動をリアルタイムに収集して分析(ジャーニーアナリティクス)することにより、リアルタイムな意思決定とマーケティング施策の自動実行を実現、顧客とブランドの対話レベルを向上させる。ジャーニーオーケストレーションは顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)をより改善したい場合の次のステップと言えるだろう。

編集部注: API=アプリケーションプログラミングインターフェイス / CDP=カスタマーデータプラットフォーム / EAI=エンタープライズアプリケーションインテグレーション / ETL=エクストラクト,トランスフォーム,ロード / CRM=カスタマーリレーションシップマネジメント / BI=ビジネスインテリジェンス / CMS=コンテンツマネジメントシステム

 ジャーニーオーケストレーションの仕組み面は、海外の調査会社では分析(ジャーニーアナリティクス)領域の製品の拡張で語られることもあるが、様々なケースが考えられる。例えば、マーケティングオートメーション製品やCDP(カスタマーデータプラットフォーム)製品がそれぞれの強みを生かしつつ、機能を拡張することで実態としてジャーニーオーケストレーションを担うようになるかもしれない。仕組みの検討は簡単ではないかもしれないが、重要なことはブランドが実現したい顧客体験の「指揮者」に誰が相応しいか、という観点だろう。また、マーケティング施策を実践する組織面においてもジャーニーオーケストレーションの考え方は非常に有効だと考えられる。それぞれのマーケティング施策の専門性が高まる中で、トップダウン的な組織構造は機能不全に陥る可能性が高い。「指揮者」と「奏者」による自律的な組織が今後のトレンドとなってくるであろう。

宗宮大輔(そうみや・だいすけ)

電通国際情報サービス CIT事業部 デジタルマーケティンググループ マネージャー

1999年電通国際情報サービス入社、一貫してマーケティング×テクノロジー領域の業務に従事。電通、電通グループを経て2013年より現職。日本広告学会、日本マーケティング・サイエンス学会、Salesforce認定Marketing Cloudコンサルタント。