「ショート動画」

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ショート動画は、TikTok等に代表される短尺動画(およびそのサービス群)。情報過多な現代において、生活者のタイムパフォーマンス志向にかなうとともに、そのアテンションを獲得する「1番打者」の役割を担う。

ショート動画がいま求められる背景

 本稿での「ショート動画」は、数十秒程度で構成される、いわゆる「短尺動画」およびそれを提供するサービス群を指している。ショート動画は、特に若年層を中心に、ソーシャルメディア/SNSにおいて急速に普及し、存在感をとみに高めている。
 なぜいまショート動画なのか。ひとつに、ネットを中心に世の中に出回る情報量は増え続ける半面、生活者の可処分時間はほぼ変わらないという構図があり、そのギャップを埋めるためのタイムパフォーマンス(タイパ)の良いメディアが求められているということ。さらには、2010年代中盤以降のスマホ・通信環境の高度化がもたらした動画時代がその到来を準備していたとも言える。
 ショート動画サービスの代表格はTikTokだが、筆者が2022年4月に上梓した『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる―ショートムービー時代のSNSマーケティング―』(世界文化社)の中でその動向を詳細に分析している。TikTokがユーザーの心をつかんで離さないのは、

①スマホに最適化された設計で長時間・高頻度の閲覧に適したUXを持つこと
②誰もが動画をつくって発信しやすく、UGCが大量に生まれること
③それらのコンテンツを高い精度でオーディエンスにマッチングさせるアルゴリズムの存在があること

を指摘した。

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新著第八章より引用

 なお、いまではTikTokだけでなく、YouTubeのショート(Shorts)やInstagramのリール(Reels)といったショート動画プラットフォームも登場し、この領域を盛り上げている。ただし、上記のハマる3つの要素においてTikTokが一歩リードしている印象で、それは発信したコンテンツの伸びる速度やユーザーからのコメントの付きやすさといった結果にも反映されている。
 サービスごとの特徴の把握に加えて、ショート動画の特性を理解していくことも重要で、それをひとことで言うならアテンションエコノミー時代において、まず生活者の認知を獲得する「1番打者」の役割を果たすということだ。短尺動画で興味を持ってもらい、そこから長尺の本編に誘導したり、別のサイトに遷移させたりといった導線や興味関心への入り口として、まずショート動画を活用するという役割が期待されている。

TikTokの勢いはどこまで続くか

 TikTokの勢いを示す代表的なデータを紹介しておこう。少なくとも、これから2~3年はその勢いが衰えることはないと見積もることができるだろう。

●日本国内MAU:約2,300万人、18-24歳と25歳以上が約半々(最近は25歳以上の層の割合が増えている)
●ユーザーの一日当たり平均視聴時間は約67分(TikTok調べ)
●世界ではダウンロード数30億回突破、MAU10億人超
●利用時間はYouTube超え(アメリカ国内、2021年)
●Googleを抜いて世界で最もアクセスされたドメイン認定(2021年)
●2024年には、YouTubeの広告収入を超えると予測(Insider Intelligence調査)

TikTok売れのメカニズム

 2021年末に、『日経トレンディ』が発表する「ヒット商品ベスト30」で首位を獲得したのが「TikTok売れ」だった。さまざまな商材がTikTokでのバズを起爆剤としてヒットした現象を指しており、「地球グミ」「ファイブミニ」「リップモンスター」など豊富な事例を挙げることができる。
 引き続きTikTok売れの解明は続けられているが、現時点での筆者の仮説として、①~④のフローで発現すると考えている。

①商品・ブランドに生活者にとってのポジティブな驚きをもたらす要因やターゲットインサイトが内在
②その商品の使用感や体験がUGCとして拡散
③企業・ブランド側も追加でクリエイターコラボの動画発信や広告配信を「追いコミュニケーション」する
④TikTok以外にも話題が飛び火し、世の中ごとになる。

 どんなものでもTikTokに出せばバズってヒットしてくれるというものではない――そしてそれは、SNS全般が何でも叶えてくれる「魔法の杖」ではないのと同じだ。あくまでも、生活者に響くようなその商品・ブランドのポジティブな魅力(サプライズ含む)を、情報が埋もれがちな現代において、しっかり発見してもらうための場として捉えられるべきであり、それを通じてこそTikTok売れが達成される可能性が開かれるのだ。

天野 彬(あまの・あきら)

電通メディアイノベーションラボ 主任研究員


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1986年生まれ。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。若年層の消費行動やSNSのトレンドに関する研究・コンサルティングを専門とする。近著に『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる―ショートムービー時代のSNSマーケティング―』。その他、『シェアしたがる心理』、『SNS変遷史』、『情報メディア白書』(共著)等。セミナー登壇やメディア出演の経験多数。