DAO(分散型自律組織)とは、特定のプロジェクトを推進するために自律分散型の意思決定プロセスを備えたコミュニティーのこと。独自のトークン(暗号資産)を発行することでメンバーの証明書とDAO内での投票権が付与される方式で、トークン保有者の投票を通じてコミュニティーの意思決定や組織運営が行われる。ブロックチェーン技術を使い、特定の管理者に依存せず自立分散型で資金調達や組織運営ができることから、web3やNFT関連のプロジェクトに用いられることが多い。
DAOとは、トークン発行を通じて自律分散型で運営されるコミュニティー形態
DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)とは、自律分散型の意思決定プロセスを備えたコミュニティー形態のことで、近年「web3」や「NFT」とともに注目を集めているキーワードのひとつだ。ガバナンストークンと呼ばれる暗号資産を発行して、DAOのメンバーであることの証明書とDAO内での投票権を付与する方式が一般的だ。ユーザーは独自トークンを購入したり既存メンバーに譲り請けたりなどすることで、DAOの組織に参加できる。また、トークンに付与されている投票権に応じてコミュニティー内の意思決定に参加することができる。
DAOの特長は、非中央集権型でコミュニティーを運営できる点だ。DAOで発行されるトークン(暗号資産)は、株式の発行による資金調達のような側面がある。投資ファンドなどは管理者が意思決定や資産運用を行う「中央集権型」組織だが、DAOは出資メンバーが資金の使い方を決める「非中央集権型」組織であり、ブロックチェーン技術で透明性を担保できる点が特長だ。それにより特定の所有者(投資家・株主)や管理者(経営者)に依存せず、その名の通り「分散型」の「自立組織」として資金や組織の運営方針をメンバー全員で決定できる。なお一般的に、リーダーなどが存在せず、メンバーが目的のために自律的に活動する組織は「ティール組織」や「ホラクラシー型組織」、「“自律分散型”組織」などと呼ばれる。このような組織をトークン発行を通じて組成することを「DAO(“分散型自立”組織)」と呼び区別することが多いようだ(用語ごとに厳密な定義・ニュアンスは異なるが、本稿の主題ではないため割愛する)。
非中央集権型のDAOが必要とされる理由のひとつに、ネット上でのコミュニティー形成における課題点がある。通常誰かとコミュニティーを立ち上げて資金を集めてプロジェクトを実行するときは信頼関係が必要になるが、ネット上でしか交流がないユーザー同士が信頼関係を築くのはハードルが高い。しかしDAOを活用すれば、コミュニティー内の誰かを信用する必要はなく、ブロックチェーン技術により透明性が高く第三者が検証できるトークンが信用の担保になり、さまざまなプロジェクト運営が容易になる。たとえばチャリティなどで、世界中の誰もがメンバーシップや寄付に参加でき、資金の使い道をメンバーで決めることができる仕組みを容易に構築できる。
web3の鍵となるDAOは、チャリティNFTからブランディングにまで応用できる!?
DAOという仕組みは、web3の鍵である「所有」や「非中央集権」などの概念を体現しており、NFTなどのトークン発行を通じてプロジェクトが実行されることも多いため、これらのキーワードはよくセットで語られる。たとえば「ウクライナDAO」は、DAOを活用した人道支援チャリティプロジェクトで、ロシアのウクライナ侵攻から間もない2月25日にローンチした。その後ウクライナ国旗のNFT(非代替性トークン)が3月2日まで販売され、収益はウクライナを支援するNPO「Come Back Alive」に送られた。このようにスピーディーに透明性の高いプロジェクトを柔軟に運営できることが、web3文脈でDAOが注目される所以だ。
ロシアのアクティヴィスト・グループであるプッシー・ライオットらが、ウクライナ支援のためにブロックチェーン技術を用いた基金「ウクライナDAO(@Ukraine_DAO)」を開設。
— Tokyo Art Beat (@TokyoArtBeat_JP) February 28, 2022
ウクライナの市民団体への寄付が目的。https://t.co/sbLUR0NTdl pic.twitter.com/AjAl0zhF6J
ちなみに世界初のDAO「The DAO」がイーサリアムのブロックチェーン上にローンチされたのは2016年4月なので、その歴史は意外と古い。その1ヵ月後の2016年5月にはThe DAOが調達した資金がハッカーに盗まれる事件なども発生しており、当時話題となった。その後さまざまな変遷を経てDAOは進化しており、この数年ではユニークなDAOの取り組みが多く登場している。
DAO Centralのスティーブン・テイ氏によると、現在のDAOには9つのプロジェクト形態に分類できるそうだ。広告・マーケティングやクリエイティブに関連がありそうな領域だと、新しいメディアの構築運営をユーザーを巻き込んで行う「Media DAO」、同じ趣味趣向のユーザー同士がソーシャルなコミュニティーを組成する「Social DAO」、NFTを複数ユーザーで購入してプロジェクトに投資する「Collector DAO」、Web3のインセンティブ構造を使ったユーザー同士の教育コミュニティー「Education DAO」、寄付などを特定のプロジェクトを実行するため「Special Purpose DAO」、ユーザーと共同でプロダクト開発を行う「Products DAO」などが存在する。
たとえばロンドンを拠点にメタバースと「香り」を研究する香水ブランドRook Perfumesは、新しい香水をユーザーと共同開発するDAOを立ち上げた。DAOが発行するNFTを購入したユーザーは、フレグランスについて学んだり、メタバースで製品開発をディスカッションする約4ヵ月間のプログラムに参加できる。そして最後に、共同でデザインしたNFTラベル付きの香水が贈呈される。さらにその香水を販売した収益からロイヤリティがDAOのメンバーに還元される仕組みだ。このDAOは、ファンベースによりプロダクトを共同開発する広告プロモーション活動という見方もできる。DAOやNFTをうまく活用してブランディングに応用している好例だろう。
日本では新潟県長岡市の山古志地域(旧山古志村)が、名物の「錦鯉」をシンボルにしたNFTアート「Colored Carp」を2021年12月に発行した事例がある。このNFTは長岡市公認で山古志地域の電子住民票の兼ねたDAOの側面があり、2022年2月にはデジタル村民から地域のアクションプランを募って投票を行う「山古志デジタル村民総選挙」が実施された。DAOを活用して地方の過疎地域がデジタルを通じた関係人口を創出を目指す取組みと言える。ほかにも、ガイアックス社が日本初DAO型シェアハウスを2022年6月28日に神楽坂にオープンして、家賃代わりに約3万円のNFTを発行して学生起業家を募集してDAOコミュニティとして運営を目指すプロジェクトなどの事例があり、日本におけるDAOへの取組みも増えつつある。
その他の事例でいうと、Emanateという音楽分野のDAOは、アーティストにリアルタイムで直接収益が入るweb3プラットフォームを提供しながら、アーティスト同士やリスナーとの交流が生まれるコミュニティーをDAOで形成している。あるいはMirrorというDAOは、分散型ブログプラットフォームを提供しており、ライターの記事を直接収益化されてしまう、またコピーや複製されたりしてしまうといったことを防ぎながら、ライターと読者のコミュニティーを形成している。これらは、クリエイティブやメディアの新しい形態を模索したDAOの事例と言える。
DAOプロジェクトの多様な進化が、web3時代のマーケターに与える示唆
DAOはまだまだ進化の途上だが、広告やブランディング、マーケティングの視点で面白いプロジェクトが日々登場している。SXSW2022でMetaのマーク・ザッカーバーグCEOがInstagramのNTF対応を予告したのは記憶に新しいが、NFTの一般化やweb3への急速なシフトの中で、DAOは鍵となるキーワードのひとつだ。DAOには様々な側面があるため本稿では十分に紹介しきれないが、広告・マーケティング的な示唆に富んだDAOの事例は今後さらに増えると予想される。日々登場するDAOをマーケティング視点で捉え直し、その仕組みや効果などの実態を冷静に判断しながら、広告・ブランディングなどへの応用を模索することが、これからweb3時代を生きるマーケターには求められるだろう。
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ADKクリエイティブ・ワン/SCHEMA
クリエイティブ・ディレクター/クリエイティブ・テクノロジスト
デジタルやテクノロジー分野での経験を武器に、未来志向のクリエイティブ開発やSFプロトタイピングを得意とする。
最近の仕事に、障害者の社会参画をテーマにした「分身ロボットカフェDAWN」、ブラックホール理論が導く”役に立たない未来のプロトタイプ"を空想した「Black Hole Recorder」など。Cannes Lions、D&AD、SPIKES ASIA、ADFEST、ACC、メディア芸術祭、グッドデザイン賞ほか受賞歴多数。クリエイター・オブ・ザ・イヤー2020メダリスト。