「バイヤー型消費」とは、次世代の購買の主役となるZ世代の最新の買物傾向のことである。デジタルネイティブな環境で生まれ育った彼らは、SNSやデジタルツールを駆使しながら、バイヤーさながらに自ら積極的に情報を収集し、その情報の真偽を様々な方法で見極めてコマース活動を行っている。
(「バイヤー」とはマーケットのトレンドを読みながら売れそうな商品を様々なブランドやメーカーから仕入れ・買い付けを行う職種と定義)
バイヤー型消費とは
“自ら積極的に情報を収集し、その情報の真偽を徹底的に確かめる。そして、本当に良いと思うものがあれば購買を即決する 。”
まるで、バイヤーが行う仕入作業のような立ち回りだ。ただ、これはZ世代がとるようになった、新しい購買動向を表している。
情報氾濫ともいわれるデジタル世界の中心にいるZ世代。彼らは情報の波を乗りこなすかの如く、様々なツールを駆使し、情報を見極め、自身の欲しいものを手に入れるようになった。特に、近年は情報の収集方法・質の見極めに敏感になっており、受け身で流れてくる情報をただ取得するのではなく、自身の情報源を最適化し、「本当に必要で、質の高い情報」を自ら集め、購買行動を行っている姿が見て取れる。
では、なぜこのような購買傾向をとるようになったのか。そのカギは、彼らが今までネットの世界で積んできた「失敗経験」にあると考えられる。デジタルデバイスに囲まれて育ってきたZ世代は、デジタル上での購買活動を活発に行い、既に多くの失敗経験を積んでいる。
例えば、
・Instagramでインフルエンサーが紹介していたコスメを購入したが、自分には合わない商品だった。
(➡フォロワー数は多いが、結果として自分には合わない情報源を参考にしてしまった)
・ECサイトで洋服を購入したが、想像していた質感とは異なる商品が届いた。
(➡限られた情報だけを参考に判断を下してしまった)
・気になる商品をSNSで見つけたので、備忘録のためにスクリーンショットを撮影。しかし、撮影したスクリーンショットが画像フォルダの中に埋もれてしまい、結局探すのが面倒になって購買をやめてしまった。
(➡大量の情報の中で欲しいものを見失った)
など、例を挙げればキリがない。
このような経験を積む中で、彼らは「必要で質の高い情報を、自身の手で選び抜く必要性がある」ことを強く実感しているのではないだろうか。そして、その状況を打破すべく、このような消費傾向にたどり着いたのではないかと考えている。
「バイヤー型消費」の4つの特徴
Z世代の新しい購買スタイルである「バイヤー型消費」をひも解くと、「開拓志向・越境志向・見極志向・即決志向」といった4つの特徴に分けられる。ここからは、その特徴をひとつずつ紹介する。
開拓志向
開拓志向とは、積極的に情報収集を行い、自分が欲しい情報を自ら取りに行くこと。
Z世代は、“個性へのこだわりが特に強い世代“とも言われるほどに、自分軸を大切にし、様々な判断を下す。それは購買行動においても同じだ。特に、好きなものや興味のあることに関しては様々な媒体を横断しながら積極的に情報を取得し、購買の参考にしているようだ。
また、好きなことを深く極めていく上で、多少の買物の失敗は厭わない傾向もみられ、自分の求めるモノや情報に対するアグレッシブさが見て取れる。
越境志向
越境志向とは、良いものを選ぶために国内・海外問わずにフラットに製品やサービスを購入する傾向のこと。
デジタルデバイスを活用すれば、世界中のあらゆる情報にアクセスできることを実感しているZ世代は、自分が求める商品にたどり着くために、海外のECサイト/SNSを駆使することをも厭わない。近年では、個人で海外のECサイトなどから直接商品を購買している 、といったZ世代も現れるようになった。もはや、彼らがみているマーケットは国内だけではないのである。
見極志向
見極志向とは、自分なりの情報筋を確保しつつ、本当に信用できる情報かを見定める傾向のこと。
SNSやネットでの情報収集をかねてより行ってきたZ世代は、デジタル上にあふれる情報が玉石混交であることを強く理解している。そのため、SNSに流れてくる情報などを鵜呑みにせず、情報源の取捨選択と最適化を行い、自身に質の高い情報が入ってくる仕組みを作り上げている。
即決志向
即決志向とは、自身が良いと判断したものを、忘れないうちに即決で購入する傾向のこと。
大量の情報を日々捌く (ルビ:さば)Z世代の悩みとして「知りえた情報を忘れてしまう」傾向があるようだ。その状況を防ぐべく、彼らは本当に良いと思う商品は、できるだけその場で購入まで済ますことが多い。情報の吟味は丁寧に行うが、良いと判断したら迷いなく購入する 点が、近年のZ世代の購買傾向のなかでも、大きな変化といえる。
バイヤー型消費に則ったZ世代に効果的なマーケティング
バイヤー型消費を捕捉する上では、「情報伝達における信頼感の演出」「購買体験のシームレス化」がカギになると考えている。
情報伝達については、ライブコマースなどの双方向性を持った販売手法を通じて、顧客の疑問を丁寧に解決することや、生活者が親近感を感じる発信者(マイクロインフルエンサーなど)を活用した情報発信などによる、信頼感を損ねない意思決定のサポートが重要である。
また、購買体験については、Z世代が欲しいと感じた瞬間に購買を促せるような、シームレスな購買体験や決済の設計が重要となる。特に、SNSなどの認知メディアから購買までの導線を手軽にし、顧客の途中離脱を防ぐことが肝要だ。認知拡散だけで終わらせず、購買までしっかりとサポートすることが今後のZ世代向けのマーケティング活動では求められるだろう。
まとめ
今回はZ世代の新しい購買傾向として「バイヤー型消費」を紹介したが、彼らの行動変容は想像以上に素早く、流動的だ。そのため、Z世代を攻略する上で大切なのは「彼らの行動傾向を常識化しないこと」。常に新しい行動をとり続ける前提で、Z世代の購買行動を捉えることが、マーケティングを実施する上で不可欠となってくるだろう。
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【定量調査概要】
■調査タイトル:博報堂買物研究所×HAKUHODO EC+「Z世代×ニューコマース調査」
調査対象:15~59歳 男女 かつ直近一年以内EC利用者
調査地域:日本全国
調査手法:インターネットリサーチ
調査時期:2023年1月
有効回答数:3,843サンプル
(内訳)
--Z世代(15-25歳):1,854s
--Y世代(26-41歳):516s
--X世代(42-59歳):516s
(ブーストサンプル)
--ライブコマースユーザー:378s
--ソーシャルコマースユーザー:373s
--クイックコマースユーザー:103s
--メタコマースユーザー:103s
調査委託先: 株式会社H.M.マーケティングリサーチ
集計方法:
スクリーニング調査を人口動態に合わせて性別×年齢(6区分)で割り付けて回収の上、一般サンプルについては、スクリーニング調査での調査対象者の出現構成に合わせる形でウエイトバック集計を実施。
ブーストサンプルについても、各ユーザー内の性別×年代(Z/Y/Xの3区分)を、スクリーニング調査での対象者の出現構成に合わせる形でウエイトバック集計を実施。
また本記事では、小数点以下を四捨五入したスコアを掲載しているため、点数差は見た目の数値と異なる場合があります。
■調査タイトル:博報堂買物研究所×HAKUHODO EC+「Z世代×ニューコマース調査」
調査対象:Z世代(15-25歳)の男女
調査地域:日本全国
調査手法:オンラインデプスインタビュー
調査時期:2023年2月
対象者数:5サンプル
--(内訳)
--18~25歳:男性:大学生
--18~25歳:男性:社会人
--15~18歳:女性:高校生
--18~25歳:女性:大学生
--18~25歳:女性:専業主婦
調査委託先: 株式会社H.M.マーケティングリサーチ
博報堂 ショッパーマーケティング事業局コマースDX推進グループ コンサルタント
HAKUHODO EC+ コンサルタント
2021年博報堂入社のZ世代。
EC領域を中心とした事業戦略立案を起点としつつ、新商品開発、市場調査、企業理念の策定、ライブコマースの戦略設計~実装など、幅広い領域のプラニングを担当。
また、HAKUHODO EC+における「Z世代向けコマース攻略プロジェクト」のリーダーを務めており、Z世代の行動を捕捉するコマース体験の設計も推進している。