「リテールメディア」

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「リテールメディア」とは、スーパー、ドラッグストアなど小売事業者が提供しているメディアの総称である。対象範囲は、折込チラシ・POP等販促展示物から店内でのデジタルサイネージ広告、さらには購買データなどを活用したデジタル広告の領域に加え、アプリによる広告・クーポン配信等に至るまで多岐に渡る。当記事においては「小売事業者が活用し得る全ての媒体における広告枠」と定義する。

 リテールメディアは米国大手小売の広告事業参入に端を発する。自社が持つ独自の顧客データや購買データ、ECサイトのトラフィック情報等、1st Party Dataを活用し、デジタル広告にて、オンサイト(自社ECサイト)及びオフサイト(外部サイト)に対し、新しいユーザーターゲティングを可能とする広告配信の提供を開始した。

 米国のリテールメディア事業の市場規模は2019年以降2年連続で150%の成長を遂げ、2021年には310億ドル規模に。それ以降も拡大を続け、2026年には14兆円に達する見込みと言われている。この米国のリテールメディアの市場規模拡大を受け、日本国内でも注目度が高まり、国内の小売事業者が続々とリテールメディア事業へ参画し、大きな注目を集めている。

 リテールメディアが高い注目を集めている理由は大きく2つある。1つ目はデジタル広告市場の変化にある。個人情報保護の観点からCookieの規制が進み、3rd Party Cookie廃止により、従来のリターゲティング広告・効果測定が難化。その結果、1st Party Dataの重要性が高まり、小売業の広告ビジネス参入・拡大を後押しした。

 2つ目は店舗のデジタル化の進行にある。少子高齢化による人手不足やスマートフォンの普及による購買行動の変化により、来店者の購買体験の向上を目的とした店舗DXの重要性が高まっている。例えば、チラシなどの従来型メディアのデジタル化・店内でのデジタルサイネージ等の情報伝達環境の構築も急速に進んでいる。デジタル化した店内環境を活用したリテールメディアへの関心度も高まっている。

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●調査概要 博報堂自主調査
対象者:20-59 歳男女 メーカー担当者(パート・アルバイト除く)
<条件>
① 小売流通に関連する製造業に勤務
② 所属部署「広告・宣伝部」or「商品企画・マーケティング」
③ 役割「小売・流通への商談実施あり」or「広告関連業務」
④ 「リテールメディア活用経験あり」を分析対象とする
分析対象回答数:120ss
調査地域:全国
調査手法:インターネットリサーチ
調査時期:2023年3月2日~3月6日

リテールメディアの中でも特に注目度の高い下記3つの分類について解説する。
①「DSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)
②「アプリ」
③「デジタルサイネージ」

①「DSP」は広告主が複数の媒体に対し、事前にセグメント設計したターゲットユーザーへ広告を配信するプラットフォームを指す。従来のDSPでは、WEBサイトの閲覧履歴や検索サイトの検索データを活用し、性別・年齢・職業・地域・閲覧したページ・行動履歴に基づいた広告配信が可能である。リテールメディアにおけるDSPでは、小売事業者が持つ独自の顧客データ・購買データなどを活用し、ターゲットユーザーがYouTubeSNSWEBサイトの閲覧時に広告を配信することが可能である。これはECをメインとする小売事業者だけでなく、実店舗をメインに運営する小売事業者も続々とメディア開発を進めており、オンラインだけでなく、オフラインの購買行動に対しても、精度の高いターゲティング広告の配信ができることに強みを持つ。

②「アプリ」は小売事業者が提供しているアプリ内に配信できる広告を指す。国内の小売事業者の多くが自社の公式アプリを運営しており、米国と異なり、広告配信対象であるアプリの配信面が豊富であるという特色がある。実店舗を保有する小売事業者はアプリを通じて、会員証機能やクーポン・お得情報の配信を主としたサービス提供を行っており、来店前・来店中、生活者の購買モチベーションの高いタイミングにアプリ上で情報発信が可能であることに強みを持つ。

③「デジタルサイネージ」は実店舗を保有する小売事業者が、店内の視認性の高い場所にデジタルサイネージを設置し、広告配信を可能としている。店内への入店直後や店内の回遊中に、音声や動画での広告配信を実現し、店内での情報想起や非計画購買の後押しなどへの効果が期待できる。

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 日本のリテールメディアは海外と比較し、小売業全体の環境の違いから、異なった特徴がある。日本の実店舗を持つ小売事業者は海外よりも多く存在しており、上位寡占化されていない。

 例えば、海外の場合、HM(ハイパーマーケット:郊外型総合スーパー)上位4社での寡占率は約98%であるのに対し、日本のGMS(ゼネラルマーチャンダイズストア:総合スーパー)上位4社の寡占率は約63%と低い。

 海外の上位小売事業者が持つリテールメディアは膨大な購買データを抱えており、データの優位性だけでなく、リーチ力に強みを有する。一方、国内のリテールメディアは購買データが小売事業者毎に分散されてしまっている為、単一のリテールメディアではリーチ力に限界があるという課題がある。

 また、昨今の生活者の購買行動の変化により、オンライン購買への移行が急加速しているものの、海外と比較し、リアル店舗でのオフライン購買での割合が高いという特徴がある。

 こういった背景から国内ではオンライン購買で捕捉できない、オフラインでの購買データ・購買行動の捕捉・分析等への関心度が高い。

 そのため、実店舗を持つ多くの小売事業者がオフラインでの購買データを活用したリテールメディアの開発を活発に進めているという傾向がある。

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 国内のリテールメディア市場が今後さらに拡大を進めて行く為のキーワードは2つ、「統合」と「生活者発想」であると考える。リテールメディアの「統合」を実現することができれば、複数の小売事業者を横断した広告配信が可能となる。そうなることで、前述した単一のリテールメディアにおけるリーチ力の課題を解消し、メディア価値の向上に繋がる。

 メディアプランニングの「統合」も重要だ。現状、広告主は既存の広告サービス(テレビCMやデジタル広告等)のメディアプランニングに、新興メディアであるリテールメディアが組み込まれていないことが多い。テレビ、デジタル広告、リテールメディア、実店舗の売り場、店頭領域まで網羅した統合プランニングが、昨今の広告主のニーズの合ったメディアプランニングの実現を可能とする。

  そして、生活者に必要とされる「生活者発想」に基づくリテールメディアへの進化が重要である。「思わず目を奪われてしまう」「購買意欲を掻き立てる」「思わぬ驚きや発見が得られる」、こうした生活者の心に響くリテールメディアの追求が、生活者の態度変容を創出し、広告効果の最大化に繋がっていくと考える。

堀江亮平(ほりえ・りょうへい)

博報堂 ショッパーマーケティング事業局 リテールDX推進グループビジネスプロデューサー リテールメディアマイスター


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ネット専業広告会社・大手印刷会社にて、デジタル領域を中心とした広告メディアプランナー及びマーケティングディレクターを経験し、20227月博報堂入社。
広告×販促・店頭領域を統合するOMOソリューションの開発や、生活者発想に基づくリテールメディアの開発、及びリテールメディアプランニング等の業務に従事。