MFA (Made-For-Advertising)とは、「広告を見せるためだけにつくられたウェブサイト」を意味する新語だ。その大半が粗悪なコンテンツとUIによって構成され、生活者や広告主にとって益がない一方で、数自体は増加しており、業界全体の課題として認識されつつある。
MFAはなぜいま問題化しているのか?
今回のテーマ「MFA」は端的に訳せば「広告のためにつくられたもの」だが、分かりやすくするために意訳するならば、「広告を見せるためだけにつくられた粗悪なウェブサイト」となる。もちろん多くのウェブサイトはより良いコンテンツを発信し、その結果として増えた訪問者・オーディエンスに応じた広告収入を正当な対価として受け取っている。しかし、MFAは良質なコンテンツとそのリターンとしての広告収入という両者のバランスを欠いたまま、それを是正することなく広告収入だけを得ようとする不正なウェブサイト群を指す。
この点をもって、MFAを”Made-For-Arbitrage”と呼ぶ向きもある。Arbitrage(アービトラージ)は一般的に「裁定取引」と呼ばれており、割安なタイミングで投資対象を仕入れ、それを割高なタイミングで売って、(金利差や価格差に基づく)差益を得る手法だ。今回の文脈にあてはめると、安くトラフィックを集めて、到達先となるMFAサイトの広告枠を広告主に高く売り、その差益で儲けているということになる。
こうしたものが蔓延してしまうのは、デジタル広告の普及がもたらしたネガティブな副作用だと言える。そして、デジタル広告の大半は既に人の手を介さない形態(=運用型広告)となっており、どの媒体にどんな広告が出ているかをチェックしきれないという構造的な問題が背景にある。実際に、「日本の広告費」(電通、2023年)で発表されたデータに基づくと、広告費総額は7兆1,021億円だが、既に最大の比率を占めるのは運用型広告で2兆1,189億円となっている。参考までに「テレビメディア(=地上波テレビ+衛星メディア関連)」は約1.8兆円である。一般的にはインターネット広告と4マス広告の対比が語られやすいが、筆者としては既に私たちが広告と聞いてイメージする「顔」(広告を象徴するもの)が、テレビから運用型広告に変わってしまっていることを指摘しておきたい(*1)
そうした比類なき成長速度の中で、ルールメイキングが追い付かないところを突くようなかたちで生まれてきたのが、いわゆる「アドフラウド(広告不正・詐欺広告)」問題であり、その新しいパターンとしてのMFAなのだ。
MFAの特徴とは
MFAをめぐっては、2023年9月にANA(The Association of National Advertisers:全米広告主協会)が声明を発表している(*2)。そこで述べられていたのは、MFAには以下のような特徴があるということだ。
▶センセーショナルな見出し、クリックベイト、挑発的なコンテンツを用いてオーディエンスの注意をひきつける
▶コンテンツは低品質かつ低割合である一方、広告収入を最大化するために自動更新されるポップアップ広告や自動再生ビデオ、また複数のページにまたがり遷移させるなどの押し付けがましいフォーマットを利用する
▶デジタル広告の買い手を欺くようにも設計されており、MFAサイトの中には、高い測定可能率、良好なビューアビリティ率、無効なトラフィックの少なさなどをもって、ブランドセーフな環境を持っているようにも感じられる
二点目に関して捕捉すると、MFAサイトの多くは、デスクトップの広告の対コンテンツ比率が30%以上に達しており、これは平均の少なくとも2倍にあたるという。肝心のコンテンツも質が低く、人の手がほぼ加わっていないようなテンプレート化されたもので、「ジェネリックコンテンツ」と呼ばれるものが大半だが、SEO最適化がなされておりクリックを集めやすい。また、ボットがサイトにアクセスしてインプレッションを「水増し」させているという指摘もある。ゲームサイト、ニュースサイト、アフィリエイトサイト等が代表的な例だと言われている。
広告主、エージェンシー、パブリッシャーの協調が求められる
ANAによると、MFAサイトは調査インプレッションの 21 %、広告支出の 15 %を占めていたという(*3)。つまり、ざっと五分の一ほどの広告リソースが「金をドブに捨てている」状態であることを示唆している。こうしたMFAを判別し、インクルージョンリスト(あらかじめ承認された広告枠の仕入れ先)から除外できるかどうかが次の焦点となる。
筆者が考えるに、いままさに進化の途上にある生成AIがさらに精度を増し普及していくと、MFAを簡単に大量生産して、それを上記のような目的で運用することがさらに容易くなってしまうリスクを抱えている。
アドフラウドやMFAを野放しにすれば、質の高いメディアに広告費が回らなくなり、メディアビジネスの中で「悪貨が良貨を駆逐する」事態を招いてしまう。そうなれば、広告主は正しくメッセージを届けられる広告スペースを失ってしまうことになり、社会的な損失にもつながる。
日本でも「一般社団法人デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)」を中心に啓発やルール整備が進められているが、そこで強調されているのが、広告主、エージェンシー、パブリッシャーと、広告に関わるすべての人が向き合わねばならない問題であるということだ。さらに踏み込むと、こうした問題で最も損失を被るのは広告主であり、だからこそこの問題に対し中心となって取り組んでいかなければならないということである。実際に、JICDAQの代表理事が広告主サイドの出身者であるのも、そうしたその気持ち、危機感の表れであるためだという(*4)。
<参考文献・引用文献>
*1 2022年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2023/0314-010594.html
※2023/12/15取得
*2 Leading Trade Groups Define “Made For Advertising” Websites
https://www.ana.net/content/show/id/pr-2023-09-made-for-advertising
※2023/12/15取得
*3 ANA Programmatic Media Supply Chain Transparency Study — First Look
https://www.ana.net/miccontent/show/id/rr-2023-06-ana-programmatic-transparency-first-look
※2023/12/15取得
*4 デジタル広告 の未来を探る:「このままでは広告という仕事の創造性が失われ、面白いと感じることもできなくなる」JICDAQ 事務局長 小出誠 氏
https://digiday.jp/brands/if-things-continue-like-this-i-wont-be-able-to-be-proud-of-my-work-in-advertising-and-i-wont-be-able-to-find-it-interesting/
※2023/12/15取得
電通メディアイノベーションラボ 主任研究員
1986年生まれ。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。若年層の消費行動やSNSのトレンドに関する研究・コンサルティングを専門とする。近著に『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる―ショートムービー時代のSNSマーケティング―』。その他、『シェアしたがる心理』、『SNS変遷史』、『情報メディア白書』(共著)、『広告白書』(共著)等。明治学院大学非常勤講師。セミナー登壇やメディア出演の経験多数。