【SNS解説 第4回】目的を整理して最適化! SNSの歩き方を決めよう

企業のSNS活用法とは? 担当者の注意点は? 前回までの解説で、企業のSNS活用には、発信・コミュニケーションを使った直接的な活用方法と、SNS上の生活者の声をヒントに、今後の戦略を考える間接的な活用方法があることを学びました。担当している業務では、どのような活用が有効でしょうか。最終回は、最適な活用方法を見つけるための「SNSの歩き方」として、まとめの解説を行います。

 前回までに、企業のSNS活用にはダイレクトマーケティングと間接の2タイプがあり、使い分けが重要であることを、いくつかの具体例も交えて、解説してきました。

 ダイレクトマーケティングはさらに「アカウント運用」「SNS広告」の2つに分けられ、間接的な活用法には「ソーシャル・リスニング」があります。SNS活用を検討する準備として、3つの活用法のメリット・デメリットをきちんと押さえておきましょう。

<アカウント運営のメリット・デメリット>

メリット

デメリット

  1. 消費者に直接的なアプローチが可能
  2. コストを抑えて、比較的手軽でシンプルに商品、サービス、企画などの訴求・ブランディングが可能
  3. 内容やタイミング、回数等、工夫次第でいくらでも任意に訴求が可能
  1. 運用の目的、ゴールの達成度が測りにくい
  2. 運用体制の構築と、運用担当者の稼働コストが必要

  3. 業種やアカウントの内容によっては、更新を継続できるコンテンツ設計に苦労
  4. 連絡・お問合せ窓口となり得る為、細かなシーンまで想定したポリシー、ガイドラインが必要

<SNS広告のメリット・デメリット>

メリット

デメリット

  1. コンテンツ更新の視点が不要で、表示するターゲットを関心領域のレベルにまで絞り込み可能
  2. SNSの機能を活かした、フォロワーや検索閲覧者へのシェア・拡散も期待できる
  3. 遷移、購買といった、獲得関連指標が計測できる
  4. クリック課金など、目的に則した料金体系を選択可能
  1. 広告費用が必要
  2. 企画やクリエイティブ面の話題化が少なく、ブランディングは不得意
  3. 広告掲載終了後の話題継続が少なく、ロングテール効果がない

<ソーシャル・リスニングのメリット・デメリット>

メリット

デメリット

  1. 関心や体験を通じた、生活者の自然な反応を知ることができる
  2. 支持要因や課題に加えて、仮説になかった意外な気づきが得られるケースがある
  3. 効果測定・成果の発見ができる
  4. 競合や類似企画など、ベンチマークからも示唆を得ることが可能
  1. 反響が少ない場合、発見が限定的となる
  2. 効果測定と今後のための示唆導出に特化しており、直接的な成果獲得施策ではない
  3. 同名異義語など、無関係な話題のフィルタリングで苦労するケースも多い
  4. いわれのない誹謗中傷を目にするケースもあり、重要度の判断に知見が必要

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SNSのお悩み解決!事例と5つのバズポイントを解説

社内での提案・検討資料にも使える!成功事例につながる5つのポイントを解説しています。話題になった事例のSNS反響データもあります。

 “定期的に投稿できるコンテンツがある” “運用担当者が確保できる” “個人経営なのでガイドラインは柔軟に設計しやすい”など、表に挙げたデメリットがクリアできる場合には、まずは自分たちの公式アカウント運用を検討するのが良いでしょう。今や、多くの企業が、「公式サイトのお知らせ配信・拡散ツール」として、あるいはベンチャーや中小企業ではコストのかかる公式サイトを開設する代わりとしても、SNSアカウントを運用していることは周知の通りです。GoogleMapや食べログで見つけたお店に掲載されている「公式HP」がFacebookやInstagramのアカウントURLになっているケースは、昨今珍しいことではありません。実際に、頻繁にメニューが変わる飲食店やキッチンカーなどでは、ポケットからスマホを出してSNSの投稿でサッと情報を更新できるほうが手軽で合理的ですし、ホームページに求められる役割を充分に果たしています。多くのメーカーでは、サイトに掲載する新商品の発売やキャンペーンなどをプッシュ型でお知らせできることから、複数のSNSでメルマガ的に公式アカウントを運用しています。こうした活用から、公式アカウントは機能や役割を絞り込んだ、いわば「略式HP」と捉えることもできるでしょう。

 公式アカウントがあれば、工夫次第で、関心を持ってもらうことができる、というのは大きな武器です。後々の活用を考えても、自社や商品に関心を持ってくれるフォロワーに、いつでもアプローチできる状態を築いておくことは、理想的です。

 「略式」といっても、企業の顔。顧客や生活者との接点となる場なので、特にそれが大手企業の場合には、誰でも見ることができる(=ユーザー登録が必要な特定のSNSに依存しない)公式HPの運用は依然としてマストな上に、SNSガイドラインの策定、例外的なコミュニケーションへの対応の発生など、SNSアカウントを運用することでそれなりに管理工数は増えることになり、デメリットも小さくありません。

 そしてコミュニケーションや独自のコンテンツ設計を行わず、新商品の発売やキャンペーンといった、プレスリリース情報や、公式サイトのお知らせ内容だけ投稿していく運用の場合は特に、知名度やプレゼント応募からフォロワー数が獲得できたとしても、リアルな関心や、拡散などのエンゲージメントは高くならないかも知れません。

 大型企画やイベントなどで参加人数を確保したいケースや、急に少しでも多くの生活者にお知らせしたいことができた際などは、SNS広告の活用を検討すると良いでしょう(公式アカウントのエンゲージメントに期待ができる場合には、公式発信との役割分担や併用も検討)。

 他にも、例えば訴求対象がアプリケーションやインターネットサービスなどの場合(SNS上でコンテンツ運用をしても大きなフォロワー獲得が見込まれなかったり、フォロワーを増やすよりも、少しでも早くページを見てもらって、利用登録、インストールなどアクションを促したい)、あるいは公式アカウントだけではすぐに情報が流れてしまって一時的な効果にとどまってしまう、もっと継続的な効果が欲しい、といった場合には、費用はかかりますが「SNS広告」を活用することが一般的です。

SNS広告画像

引用元:Xhttps://business.x.com/ja/advertising/formats.html

 「SNS広告」最大の特長は、自然に受け入れられやすいように、画像や投稿文、いいねやコメント、拡散といったユーザーが普段利用するエンゲージメント機能が使え、要素や配置も共通、または類似したデザインに揃えられている点です(一部に、明確な広告掲載スペースとして用意された、バナー広告やブランドパネル広告タイプのメニューも用意されていますが、目立つこと以上に馴染むことを重視したいSNS広告の中ではメインストリームではないとみられています)。上の画像はXのタイムラインに掲載される広告を示していますが、実際にリポストやいいね、コメントをつけることができる、外見上は「広告と明記された投稿」です。他にも、動画の強調やカルーセルタイプなど、ユーザー投稿にはないリッチな見せ方を採用した広告もありますが、多くはエンゲージメント機能がつけられ、投稿として拡散を期待することができます。原則、投稿者としての「企業SNSアカウント」も存在することになりますが、広告配信専用アカウントとして存在するケースも多く、コンテンツの運用は任意となります。

 「SNS広告」の運用も、目的によっていくつかのパターンに分けることができます。先に挙げた、常時募集している登録制のサービスやスマートフォンアプリなどの広告では、定常運用と位置づけて、いつでも同じクリエイティブの広告が表示されることも少なくありません。一方で、イベントやキャンペーンなどで集中的に認知を獲得したい場合には、それに特化したクリエイティブが配信されています。

 SNS広告の掲載費用は表示回数、クリック数、フォロー、インストールのようなアクション数などから選べるようになっており、予算に合わせて1日に消化する金額の上限を設定することができます(単価は「入札制」となる為、調整が必要です)。またSNS広告では、生活者の属性や関心領域を指定した配信ができる点も魅力です。例えば、実名登録制であるFacebookでは、役職などで配信対象を絞ることもできる為、特にBtoBの広告では有用とされています。

 こうした特徴やメリットを踏まえて、まずは、11,000円などの少ない予算で試して、成果をみて配信数やクリエイティブ、メニューなどを調整していくと良いでしょう。

 SNS広告には弱点もあり、「新聞広告」や「交通広告」のように、インパクトで話題を集めたり、心に刺さったクリエイティブや推し活コンテンツとして大切に保存されて残るケースは少なく、現時点ではブランディングに向いている広告とは捉えられていません

 そして「ソーシャル・リスニング」は、前回解説したとおり、ダイレクトマーケティング上の役割においては、いわばバックヤードの裏方です。通常、公式アカウントやSNS広告では、SNS標準の計測機能を用いて、発信した投稿や配信された広告の効果測定を行いますが、そこで確認できるのは、投稿や広告がどの程度見られたか、拡散されたか、クリックされたかといった、自らが用意した施策に対する反応に限られます。

 ソーシャル・リスニングのメリットは、対象を一般生活者の発信に拡大して、反響を確認できることです。第3回の解説で、「尋ねたいことを質問・検証できる」アンケートと、「何も仮説のない状態から発見ができる」ソーシャル・リスニングとの組み合わせで、仮説の導出と検証が併せて行えるとして相性の良さに触れましたが、公式投稿やSNS広告の効果測定と、ソーシャル・リスニングとの関係は、まさにそれと同等の補完関係にあります。発信の反響を確認する一方で、関連する話題の生活者ニーズ、関心のポイントを探っておいて、次回以降の発信内容やアプローチの改善に反映させることができるわけです。

 もちろん「ソーシャル・リスニング」はダイレクトマーケティングに特化した活用法ではないため、他のSNS活用法と組み合せるだけでなく、単独でブランディングの戦略や商品開発などに広く活用できる点も、忘れてはいけないポイントです。

 3つのSNS活用の組み合わせは表の4通り考えられますが、「SNS広告」は必要になったタイミングでいつでも実施できる為、重要なのは「アカウント運用」「ソーシャル・リスニング」を取り入れるかどうか(担当業務の分野に必要か、何を目的に実施するか)をあらかじめ考えておくことと言えそうです。

 SNS分布表1
 GettyImages-SNS

 改めて、「SNS広告」はブランディングに適しているとは捉えられていません。保存性・コレクション性が低いことも要因のひとつですが、SNSはフローのメディアであり、ブランディング自体が、どちらかといえば、アカウント運用によって少しずつ築きあげられるイメージ醸成の積み重ねであることとも、関係あるでしょう。それに対して、新聞広告や交通広告は、伝統的でラグジュアリーな広告であると感じられやすく、スポットの広告の実物や撮影した写真が大切に保存されたり、1年後、10年後にも話題として残るなど、ロングテールの効果をもたらすことの多い特性があります。SNSと組み合わせれば、ステータスや価値を持った広告に拡散性が加わるというメリットが得られます。アニメ作品の書き下ろしの全面広告がトレンドに上がり、作品ファンにとって大切な宝物になる、という現象は、その象徴ともいえるでしょう。

 他にも、YouTubeやインスタグラム、TikToK上でのインフルエンサーマーケティングはもちろん、「あつまれ どうぶつの森」や「ドラクエウォーク」といったメタバースの世界の中での企業コラボレーション、さらにはそのプレイシーンのSNS配信(ゲーム実況)など、生活者と企業をつなぐ場が増えたこと(企業のコンテンツ化)で、SNSを絡めた手法の組み合せは多様化する一方です。その中で、担当業務の魅力を伝えるのにふさわしい組合せは何か、探していくことは、現代に求められる要素とは何か、を考えることであり、だからこそ「SNSの歩き方」を見つけることが重要であると言えるのです。

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SNSのお悩み解決!事例と5つのバズポイントを解説

社内での提案・検討資料にも使える!成功事例につながる5つのポイントを解説しています。話題になった事例のSNS反響データもあります。

市古 大樹

 
ディー・フォー・ディー・アール株式会社(D4DR inc.)
※寄稿者の所属先企業に遷移します


ichiko_トリミング4

マーケティング視点でのSNS分析の他、未来予測から目の前の課題解決までサポートする、未来共創コンサルティングパートナー「D4DR株式会社」のシニアアナリスト。
ソーシャルメディア分析を専門領域に、投稿をもとにした生活者のインサイト抽出・提案を得意とする。D4DR 札幌リサーチセンター室長。