未来の教育のあり方を考える、意識の高い教員ら4500人が参加
――まず「未来の先生フォーラム」がどのような趣旨や目的で運営されているイベントなのか、教えてください。
情報社会の進展、テクノロジーの進歩は学校現場にも大きな変革をもたらしています。テクノロジーの進歩は長寿化をもたらし、「人生100年時代」が登場しました。加速度的に進化するテクノロジー・社会はVUCAという複雑で多様な時代を創り上げ、今日も発展しています。絶えず自己変革が求められる時代とも言えます。このような時代には、小学校から大学までに学んだことだけで、生涯充実した人生を生きることは難しくなってきています。何歳になっても、自ら問いを見つけ、主体的に学び、変わり続けていく能力が必要です。今、日本の学校教育で推進されている「探究学習」も、そのような文脈のもとで導入されたものです。
でも子どもたちに自ら問いを見つけ、主体的に学ぶ力を身につけさせるには、先生自身がそのような姿勢で主体的に学び続けなくてはなりません。学校現場を変えるには、まずは先生自体が変わる必要があります。新たな時代には、新たな先生の学びが必要ではないか。そのような問題意識のもと、大学院でこれからの学校教育や教員のあり方を模索していた私が立ち上げたのがこのフォーラムです。当時、同じような問題意識をもつ教員や教員関係者は多かったようで、多くの賛同を得て、大きなイベントへと成長しました。
――具体的なプログラムや参加者について教えてください。
最近は毎年夏に、オンラインとリアルの両方で開催しています。昨年のリアルイベントは桜美林大学新宿キャンパスを借り切り、2日間で約100プログラムを開催しました。
なかでも昨年は『LIFE SHIFT』の著者、リンダ・グラットン先生と中央教育審議会会長の荒瀬克己先生が出演した記念プログラムを目玉企画として実施しました。
昨年の参加者は4500人ほど。忙しいなかでわざわざこのようなイベントに参加するだけあり、参加者の先生方は課題意識が強く、情報感度が高いと評判です。そして、学校未来の教育のあり方を真剣に考え、新しいことに意欲的に取り組まれる先生方が多いことも特徴です。
教育市場にゲームチェンジが起き、企業の参画を歓迎する機運が高まっている
――ICTやプログラム・教材関連を中心にさまざまな企業が協賛し、学校と企業の出会いの場となっているのも大きな特徴ですね。
社会の複雑化・高度化に伴って、現在の学校現場も非常に複雑化・高度化しています。現在の学校現場の変化の流れは大きく二つ。学校環境の変化といった意味での教育DX、教え方の変化といった意味での「探究学習」です。このように広範にわたって抜本的な変化が起こっていますので、教員がやらなくてはならないこと、自分たちだけではできないことが増えています。そこでこれからはICTをはじめとした技術やノウハウ、人的リソースをもつ企業と学校が連携し、新しい教育環境をつくっていく必要があるのです。さまざまな領域のプロフェッショナルである企業が、学校現場に貢献できることはどんどん増えています。
DXはデジタル・トランスフォーメーションの略語ですが、デジタル化は今まで学校が持っていた延長線上にはない専門性のため、その専門性を必要とする学校が閉鎖的な性質から開放的な性質に変容する傾向があるのではないかと考えています。そのような開かれた学校の成功体験が広がり、デジタルに限らず、探究的な学習など、教育実践までも企業と力を合わせて実施する学校が特に私立学校において増えていると考えられます。これからの学校は、学びの場を企業や地域など、様々なステークホルダーとともに共創していくことで、より良い学校、学びが創られていく可能性があること、そしてその意義を痛切に感じています。
――企業が教育市場に参入するうえで何か気を付けるべきことはありますか。
今、デジタル化によって教育市場にゲームチェンジが起きています。これまで学校と強固な関係を築いてきた会社が、必ずしも優位とはいえない時代になってきています。その変化によって、社会人教育や法人の業務効率化などのDXサービスを提供していた企業などの新規参入が増えています。
とはいえ企業の論理、プロダクトアウトの発想で作っただけの製品はたいてい失敗します。学校教育のトレンドをしっかり把握したうえで、教員や職員の声に真摯に耳を傾け、教育現場の課題やニーズを理解し、インサイトを持つことが何より大事です。自社の強みと学校現場のマッチングは必須ですが、そこに苦戦している企業がたまに見受けられます。
学校と企業がパートナーとして、ともに学びあい、新しい価値を生み出す時代に
――いずれにしろ今後、企業にとって教育市場の可能性はますます広がっていきそうですね。
市場という文脈で言えば、先述したような高度化する学校現場では、以前のように何でも自分たちで賄う自前主義では立ち行かず、私立学校は当然のこととして、GIGAスクール構想のように公立においても予算が付くなど、経済的な規模も増しています。この点で、学校教育を市場として捉えるときには市場は大きく拡大していると言えます。つまり、企業が活躍する土壌が増えているということです。デジタル化が進む今日において、この傾向は続いていくと考えられます。
さらに自社の強みをいかして商品やサービスを提供するだけでなく、SDGsなどの文脈でのCSR活動、人材育成の協働など、企業と学校のコラボには多様なかたちがあります。これからは学校と企業が様々な方面でパートナーとなり、ともに学びあいながら、学校現場に新しい価値を生み出すインタラクティブな関係をつくっていくことが求められるのではないでしょうか。
企業と学校が従来の固定観念を外し、ともに協働しながら人を育て、新しい社会を築いていく。そんな時代を目指し、これからも「未来の先生フォーラム」を通し、学校教育の課題やニーズと企業の強みを結びつける支援に力を入れていきます。
1991年生まれ。早稲田大学教育学部教育学専修卒業、早稲田大学大学院教育学研究科修了(教育学修士)。プロデューサーとして日本最大級の教育イベント「未来の先生フォーラム」創設や通信制高校の創設に関わるなど、様々な教育に関する企画や新規事業を実施。創業した会社(株式会社未来の学校教育)が2023年10月に一般社団法人未来の先生フォーラムと共に朝日新聞社へグループイン。現在は一般社団法人未来の先生フォーラム代表理事、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員などを務める。編著に「SCHOOL SHIFT」(明治図書出版)、監修に「16歳からのライフ・シフト」(リンダ・グラットン,アンドリュー・スコット著 東洋経済新報社)