新聞広告はまずビジュアルから。広告の影響力を認識し、社会に対してポジティブな作用が働く表現を目指して

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 広告写真、CM、作品制作、映画など幅広い領域で撮影を手がけ、「ジャンルを超えることで新しい表現が見つかる」と語る瀧本幹也氏。新聞広告の撮影も多く、朝日広告賞ではグランプリをはじめ数々の賞を受賞。2019年度(第68回)からは朝日広告賞「一般公募(新聞広告の部)」の審査委員を務めています。

 この2月に出版した仕事集『Mikiya Takimoto Works 1998-2023』(青幻舎)の内容や、朝日広告賞、新聞広告に寄せる思いなどをうかがいました。

予定調和ではない何かに期待している

──先日、キャリアのスタートから25年に及ぶクライアントワークをまとめた初めての仕事集『Mikiya Takimoto Works 1998-2023を刊行されました。表紙や中面の章立てとして挟まれる写真は、「これまでの25年間に生み出された多種多様なコマーシャルワークの作品群を宇宙に存在する無数の星になぞらえた光のグラフィックシリーズ」とのことですが、どのように撮影したのですか?

 光のグラフィックシリーズのアイデアは、本の装丁をお願いした矢後直規さんが僕の“宇宙好き”なところから発想してくれました。矢後さんはアートディレクターでグラフィックデザイナーでもあるので、グラフィックワークでも完結できたのですが、「コラボレーションしましょう」と言ってくれて、撮り下ろすことに。隣り合うページに掲載された写真の、例えば山並みの稜線をトレースして、ドットを黒いシートに空けました。そのシートの背後から照明を当て、穴から漏れる光を撮影しています。

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──掲載作品のセレクトは瀧本さん自ら行い、これまでに手掛けてきた膨大な仕事の中から1割程度に厳選したそうですが、どのような視点でセレクトしたのでしょう。

 2018年に出版された作品集『CROSSOVER』は基本的に年代を追いながらセレクトしたのですが、今回はどちらかと言うと自然なページの連なりを意識しました。例えば、サントリー 天然水の広告写真の次は、同じ水のつながりで としまえんプールの広告写真。TOYOTA5大陸走破の広告写真の次は、同じアフリカの野生を被写体にしたカロリーメイトの広告写真というように。

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──撮影時の素晴らしい光や表情など、そこでしか出合えない決定的な瞬間をとらえるため、必ずしも計画通りにならなくとも、結果的にクライアントが納得して成立するケースも多いのでは?

 ラフ案と違っていても「こっちの方が良いね」となることは多いです。そもそも、どんな撮影も気象条件や時間的な制約、国ごとの事情など、様々なことが複雑に絡んできます。そうした中でのベストな被写体は現場で見つかることが少なくありません。幾度もの打ち合わせやテスト、フィッティングを経て設計図通りに撮影すれば、いわゆる“お仕事”としては成立するでしょう。ただ、自分の場合は “お仕事”を上回る何か、予定調和ではない何かを常に期待してしまいます。

 もちろんクライアントあっての広告写真ですが、広告写真という枠組みに縛られて面白い何かを発見できないのはもったいない。そういう意味では、『Mikiya Takimoto Works 1998-2023』は、広告写真という枠組みを超えて、自分の作品とも言える写真を収めた一冊になっていると思います。

朝日広告賞のグランプリのひとつは、ラフ案とは違う撮影をした

──瀧本さんは国内外の広告賞で数多く受賞されていますが、朝日広告賞では資生堂(2002年度・第51回・準グランプリ)に始まり、新しい地図(2017年度・第66回・グランプリ)、ストライプインターナショナル(2018年度・第67回・グランプリ)の作品が印象的です。グランプリの2作品について、制作エピソードなどを聞かせてください。

 新しい地図の広告は、写真というよりも話題性や社会現象も含めて評価を受けたのかなと思います。一つ覚えているのは、「『風林火山』のような旗頭になるビジュアル」というコンセプトに対し、戦いに向かう旗頭ではなく、なるべく軽やかな、新しい風が通るようなイメージを提案し、木漏れ日を撮りました。

 ストライプインターナショナルの広告は、アートディレクターの副田高行さんから最初にもらったラフ案では、広瀬すずさんの顔の大写しではなく全身写真でした。アパレルブランドの広告なので、服を見せたいという意図もあって。

 その一方で、企業の思いを児島令子さんが手がけたコピーに乗せて打ち出す広告でもあったので、顔だけの方が強く伝わると感じてあの写真になりました。全身写真は全く撮らなかったので、後で副田さんから「頑固」と言われました(笑)。

──クボタの広告は3年連続で部門賞を受賞しています。

 クボタのシリーズ広告は構成的なビジュアルにしたかったので、むしろ設計図通りの方がいいと考え、重機の撮影はミニチュアでテストしてアングルを決めてから本番の撮影に臨みました。

 シリーズ広告では、「世界観」が必要だと思っています。商品によっては同業種の別の企業の広告を担当することもあるからです。僕の場合、キリン「淡麗グリーンラベル」、サッポロ「黒ラベル」、サントリー「ザ・プレミアム・モルツ」など、ビールや発泡酒などの広告をたくさん手がけてきました。全部が同じに見えてしまったら良くないのです。ですから、シリーズ広告では常に一つの世界観をつくるように心がけています。

新聞広告ならではのアイデアが新しい

──様々なデバイスの中で広告が氾濫しています。「目にとまる広告」について、どのようにお考えですか?

 自分は写真家なので、やはりビジュアルが面白いと目がとまります。新聞広告もまずビジュアルに目が行きます。僕は昔からネタ帳をつけていて、自分の仕事の何が評価を受けたのか、理由を探ってメモしています。また、街やSNSで目にとまるものがあった時も、何が気になったのか、その場で整理してメモしています。それとは別に、視界に入るなり目をそむけてしまう広告もあります。

 広告は見るともなく目に入ってくるものですが、その影響力は良きにつけ悪しきにつけ大きい。僕らの世代がそこをきちんと認識し、社会に対していい作用が働く表現を目指していかなければと常々思っています。

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──朝日広告賞(一般公募)の審査委員を担当されています。デジタル全盛の時代だからこそ感じる新聞広告の役割や魅力、写真家にとっての朝日広告賞の存在について、聞かせてください。

 新聞の魅力は何と言っても手元で読めることです。新聞はまずビジュアルに目が行くと話しましたが、ビジュアルが面白ければ、自然とキャッチコピーやボディーコピーを読みたくなります。

 朝日広告賞の一般公募部門は、学生を含む若い人たちの応募作品を見るのが毎回の楽しみです。いわゆる“大人の事情”にとらわれず、自由な発想をそのまま表現してくれるところが初々しく、自分の若い頃を思い出して新鮮な気持ちになります。昨年、新聞広告の部でグランプリを受賞した作品もイラストにしてはめずらしいアングルで、とても共感しました。

──既存の新聞広告で印象に残っている表現はありますか?

 自分が関わった広告ですが、森本千絵さんがアートディレクターを務めたMr.Childrenのベストアルバムを告知する15段広告は印象に残っています。文字のない真っ白な紙面に水滴が落ちたようなビジュアルで、水滴の“裏写り”の部分にアルバム発売の情報が書かれているという仕掛けでした。新聞広告ならではのアイデアで、新しいと思いました。

ジャンルを超えることで新たな発見がある

──是枝裕和監督の映画撮影や音楽系のテレビCMなど、映像の仕事も多く手がけています。

 僕の仕事を大きく分けると、自分の作品、広告、CM、映画の4つのジャンルにわたっています。このジャンルを超えることで新たな発見があると思っていて、前回の作品集『CROSSOVER』はその意味を込めたタイトルでした。広告写真に映画撮影の経験を生かすこともあります。

 例えば俳優さんを起用した広告写真を撮る時に、物語や設定を作ってセリフを言ってもらうと、俳優さんたちの表情がいきいきと輝きます。逆に映画撮影の時に「自分の作品だったらこう撮る」というアイデアを取り入れることもあります。

 Mr.Childrenのアルバム「HOME」では、ポスター以外にPVも撮影しました。ロケ地のマウイでいろいろなファミリーを撮影したのですが、フィルムの予算がないので「端尺」を使って撮影しました。制作プロダクションが他の撮影で使って余った半端な長さのフィルムをかき集めて撮影したのです。余り物なのでメーカーもフィルムタイプもバラバラで、確か7種類くらいあったと思います。でも、そのおかげでむしろ豊かでぜいたくな感じの仕上がりになりました。

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──写真家にはそうした発想力や応用力が必要なのですね。

 そうですね。予算がないと愚痴を言うのは簡単ですが、限られた条件を逆手に取って発想を転換した方が建設的だし、新しい表現につながる可能性も出てくる。僕がコロナ禍の中で寺院や花々に小さな宇宙を発見したのも、あちこち飛び回れない状況と折り合いをつけていく中で生まれた出来事でした。

 写真家がいい写真を撮るのは当たり前のことです。これからは多分、AIによる創作と人の手による創作の折り合いをどうつけていくかという時代で、その状況を逆手に取ってアイデアを生む力が必要になる気がしています。

──画像生成AIによる広告制作についてはどのように考えますか?

 シンギュラリティーは当初予想された2045年から2030年代に早まると言われています。よくできたAI画像やAI動画を目にする機会も増えました。

 ただ、過去にとらえた物の“いいとこ取り”なので既視感があり、そこにクリエーティビティーは感じられません。AIにオリエンできる人が企業内にいれば、クリエーターを介さずに企業広告や商品広告を簡単に作れる時代はすぐそこに来ています。だからこそ、人の頭でアイデアをひねり出したもの、体を張って作り出すものに価値が生まれるのではないでしょうか。少なくとも自分はそこを目指しています。


5月2日から6月29日まで、パリ日本文化会館で開催の「KENZO TANGE – KENGO KUMA Architectes des Jeux de Tokyo(丹下健三と隈研吾展 東京大会の建築家たち)にて、隈研吾氏設計の国立競技場を撮影した写真を展示予定。

今夏、京都で撮影した神社仏閣や花々の作品集を出版予定。


瀧本 幹也(たきもと・みきや)

写真家

1974年愛知県生まれ。94年より藤井保氏に師事。98年に写真家として独立し瀧本幹也写真事務所を設立。

広告写真やCM映像をはじめ国内外での作品発表や出版など幅広く活動を続ける。写真と映像で培った豊富な経験と表現者としての視点を評価され、是枝裕和監督から映画撮影を任された『そして父になる』『海街diary』『三度目の殺人』では、独自の映像世界をつくり出している。

代表作に、ドイツの造形学校バウハウスを構成的にとらえた『BAUHAUS DESSAU ∴ MIKIYA TAKIMOTO(2005)、世界7大陸を巡り観光地の非日常性に集まる人々を撮影した『SIGHTSEEING(2007)、『LOUIS VUITTON FOREST(2011)、地球の原風景「LAND」と文明の象徴としての宇宙開発「SPACE」の相対するシリーズをまとめた『LAND SPACE(2013)のほか、『Le Corbusier(2017)、『CROSSOVER(2018)などがある。