篠原ともえさんが語る「広告」の魅力 自分が信じる「視点」と表現を、自信を持って解き放つ

16歳でエンターテインメントの世界にデビュー。現在はデザイナー、アーティストとして多方面で活動している篠原ともえさん。2020年には夫でアートディレクターの池澤樹さんと、クリエイティブスタジオ「STUDEO」を設立した。「第101回ニューヨークADC賞」では、ブランドコミュニケーション部門でシルバーキューブ、ファッションデザイン部門でブロンズキューブを受賞するなど、活躍の場を広げています。2022年度(第71回)からは朝日広告賞「一般公募(新聞広告の部)」の審査委員に。朝日広告賞を通じて実感した広告の面白さや新聞広告への期待をうかがいました。

感情を震わせてくれる作品に心引かれます

──朝日広告賞は1952年の設立から、クリエーターの登竜門として多くの有名クリエーターを輩出してきました。2022年度の朝日広告賞の審査委員にオファーを受けた際、どのようなご感想を持ちましたか? 

  私自身がデザイナーとしては一風変わった経歴の持ち主ということもあり、オファーがあった時は、「本当に私が参加させていただいていいのかな」というのが正直な感想でした。しかも審査委員の皆さんは、広告界を牽引(けんいん)するそうそうたる方々。初回は緊張しながら審査に臨んだ覚えがあります。

──初回の審査会はいかがでしたか?

 審査委員の皆さんの熱量に圧倒されました。白熱した議論を交わしながら真剣に応募作品と向きあい、お一人おひとりがまるで自分の作品をプレゼンテーションするかのように作品の魅力を語っていらして……。その瞬間に立ち合えるだけでもぜいたくな体験だと思いましたし、傑出した表現をすくい上げようとする皆さんの姿勢に感動しました。

 皆さんの審査講評は私自身の学びにもなっています。例えば、「現実の広告はコンプライアンスやクレームの観点がこれまでより厳しい現状にあるが、その障壁を乗り越えないと新しい提案は生まれない。新聞広告の部の一般公募はちゅうちょのない解き放たれた表現ができる場で、そこに挑戦した作品に票を投じたい」というアートディレクターの川口清勝さんのコメントは、とても印象的でした。

 コピーライターの児島令子さんの鋭い考察にも気づかされることがたくさんあります。第一線で広告制作に携わってこられた方々が惜しげもなく「広告体験の価値」を披露してくださるので、そのつどメモを取っています。つい見過ごしていた作品の魅力に気づかされることで、自分の視野が広がる感覚もあります。

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──応募作品の審査にはどのようなお気持ちで臨んでいますか? また、印象に残っている作品がありましたら、お聞かせください。

 一般公募は自由な発想が集まる場ですから、自分自身の感性を研ぎ澄ませて審査に臨んでいます。
 2022年度(第71回)の応募作品の中で好きだったのは、大きな背中のイラストが見開き30段の画面いっぱいに描かれたGakkenの課題を扱った作品です。

Gakken_01 第71回 朝日広告賞入選/広告主 Gakken/課題 学研の科学

  「おふろで、夏の大三角見っけ。」というコピーを見て、ホクロを星座に見立てて楽しんだ自分の子ども時代の記憶がワッとよみがえりました。

 「誰にも言ったことがなかった自分の体験と同じ体験をした人がここにいる!」という驚きもあって。それを審査講評でお話ししたら、審査委員の皆さんが「面白いね」と賛同してくださり、そのことにも感激しました。
 結果的にこの作品は入賞し、自分の視点を信じていいんだなと、私自身が勇気をいだいたような気もしました。

──篠原さんが心引かれる表現は、どのような表現なのでしょう。

  思わず声が出てしまったとか、見た瞬間にハッとしたとか、感情を震わせてくれる作品に心引かれます。実際に掲載されたら自分が歓喜するだろうなと想像するのが面白く、それはエンターテインメントを楽しむ感覚に近いかもしれません。
  2023年度(第72回)の応募作品の中で言うと、ほぼ真っ黒なビジュアルに「消したら見えたぞ。」というコピーを添えたトンボ鉛筆の課題の作品は、見た瞬間にハッとしました。

tombo__2 第72回 朝日広告賞入選/広告主 トンボ鉛筆/課題 TOMBOWの文具のブランド広告

 消しゴムで「消す」ことで新たな世界観を生み出している作品で、コピーライターの岩崎俊一さんが過去に、実際のトンボ鉛筆の広告で表現された「人は、書くことと、消すことで、書いている。」(2006年)というコピーを思い出しました。
 見開き30段の使い方も大胆で、一般公募だからできるアートに近い表現だと感じました。

一般公募受賞者と審査委員 一般公募受賞者と審査委員

審査委員の任を通じて新聞の唯一無二の価値を再認識

──新聞広告についてのご意見をお聞かせください。

  ニュースメディアが多様化する中で、ネットで情報を得る人が増えていますが、今も新聞メディアに可能性を感じています。
 自分が表現者として新聞に掲載していただく立場でもあるので、その影響力を体感しているんです。
 媒体同士の影響というのは直結している印象で例えば、テレビに出演するとテレビ出演のオファーが増え、雑誌にインタビューが掲載されるとその他の雑誌やWEB媒体の露出へとつながります。

一方、新聞は記事や広告にインタビューが掲載されると、ジャンルを問わず多方面から反響や問い合わせがあり、お仕事の幅が予想以上に広がることが多いんです。
 新聞は、政治、経済、文化、エンターテインメントなどあらゆる情報の真実を伝える貴重なメディアで、読んでいる方々や配布されている地域はとても幅広い。
 紙面の大きさ、手触り、めくったときの音、インクの匂いなども、新聞ならではの特性だと思います。

 私自身、これまで紙の新聞を読む機会はそれほど多くなかったのですが、朝日広告賞の審査委員をお引き受けしたことで、新聞の唯一無二の価値を再認識するようになりました。
 審査の合間には審査委員の皆さんと雑談する時間もたくさんあるのですが、皆さんのあふれる「新聞広告愛」に触れ、やはりすごく魅力的な媒体なんだなと、ますます興味を募らせています。

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 ──新聞広告を媒介にしたデジタル連携の施策も増えています。デジタル連携の可能性についてはどのような印象をお持ちですか?

 個人的には、2022年の元旦に掲載されたJUJUさんのカバーアルバムを告知する新聞広告に衝撃を受けました。準朝日広告賞のほか、東京ADC賞も受賞した広告です。

sonnymusiclabel_3 第70回 朝日広告賞準朝日広告賞/広告主 ソニー・ミュージックレーベルズ /タイトル JUJUカバーアルバム『ユーミンをめぐる物語』A HAPPY NEW YEAR 2022/掲載日 2022年1月1日付

 記載されているQRコードをスマホで読み取って、スマホを紙面に向けるとARでレコードが回り出し、JUJUさんの歌声が聞こえてきて、紙面のボディーコピーが浮き上がって歌詞に変化するという仕掛けで、体験した時に心が震えました。
 新聞×デジタルによってメッセージに立体感が生まれ、人々の心に浸透していくという、広告の未来の形を見せてもらった気がしました。
 朝日広告賞は2022年度からデジタル連携の部が新設されましたが、新聞との接点が少なくなっている若い層も意欲的に取り組めるクリエーティブの分野だと思うので、注目しています。

一般公募(新聞広告の部)で評価される表現は、広告の未来を担う表現

──ご自身の経験もふまえて、広告に期待することをお聞かせください。

  私は2020年にアートディレクターで、夫の池澤樹とデザイン会社を立ち上げました。
 池澤はこれまで多くの広告を手がけてきましたが、私自身は広告についてまだまだ学ぶ必要があると感じています。そうした中で池澤からたびたび言われるのが「視点」の大切さです。
 企業やブランドやプロダクトの存在価値を世の中に届ける際にカギとなるのが「視点」であり、その視点の違いを、自分たちなりにわかりやすく可視化し、人々に届けることが我々クリエーターの役割であると。 
 最初にそう言われた時は正直ピンとこなくて、デザイナーである私にとっては、広告的視点とは専門外なのではないか、自分にそのような視点が身につくだろうかという思いもありました。

実は、朝日広告賞の審査委員のオファーがあった際に、池澤から「朝日広告賞の過去の入賞作品をよく見た方がいい」とアドバイスをもらったんです。そこで、過去の入賞作品にすべて目を通しました。
 それは至福の時間で、こんなにもアイデアにあふれた広告賞なのかと驚き、審査でどんな表現に出会えるのかとワクワクしました。
 そして実際に出会った応募作品はどれも魅力的で、「このアートディレクターはこの1枚絵でどんなメッセージを届けたかったんだろう?」などと、かけた想いも労力もしっかり伝わってくる。制作の背景や作者の意図を想像せずにはいられませんでした。

 さらに審査委員の皆さんのご意見をうかがう中で、まさに「視点」が大事なのだと、池澤のことばが腑(ふ)に落ちたんです。
 それと同時に、視点の違いを世の中にわかりやすく可視化する広告づくりを続けてこられた審査委員の皆さんが評価する表現は、広告の未来を担う表現に違いないと強く思いました。

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──最後に、朝日広告賞の応募者をはじめとする次世代のクリエーターたちへのメッセージをお願いします。

  審査委員の皆さんの熱い議論を引き出しているのは、ほかでもない応募者の皆さんから寄せられる作品たちです。
 ですから自分たちが信じる「視点」と表現を、自信を持って堂々と解き放ってほしいと思います。次の審査会で応募者の皆さんのさまざまなアイデアに出会えるのを楽しみにしています!

篠原ともえ(しのはら・ともえ)

デザイナー/アーティスト

1995年歌手デビュー。文化女子大学(現・文化学園)短期大学部服装学科デザイン専攻卒。メディアでの活動を経て2020年アートディレクターの池澤樹とともにクリエイティブスタジオ「STUDEO」を設立。 2022年デザイン・ディレクションを手掛けた革の着物作品がニューヨークADC賞(銀・銅)、東京ADC賞を受賞。Eテレ「みいつけた!」TOKYO FM「Tokyo Planetary Cafe」朝日新聞デジタル「アイデアのありか」連載中。

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